mixiユーザー(id:5708627)

2026年04月01日00:54

44 view

馬太男、2度目の愛。 [汚れちまった青春ー9]

 馬太男、2度目の愛。
[汚れちまった青春ー9]


「「馬太男」の2回目です。前回掲載した時と同じ弁解、エロがないけどごめんなさい。
 今回は、ぼくの高校時代の宿敵、柔道部顧問の武田との死闘が間に入ります。あー、今思い出しても悔しいなあ。
 ぼくは、だいたい格技系の教師には目の敵にされるね。セリフは決まって、
「ちょろちょろ、してんじゃねぇ」
「バカヤロー、お前なんかのいう通りなってたまるかー」
 口に出さないけど、顔に出ています。文化系の先生は
「最近、なんの本、読んだー」
 ほら、違うだろう。

              ○
 
 ぼくらは高校2年で修学旅行に行きました。北海道です。
 入浴ショーの前線座事件から2年たっています。あの18禁の加藤も、もちろんいっしょ。
 ぼくらはとっても自由で、何をしてもよいのです。旅行中は私服で出て歩いて、他の学校の連中(とくに女子高の様子)をちらっと見て、帰りにバーを見つけ、
「じゃあ、一杯、飲っていくか」
とビールかカクテルを飲んで、旅館に戻ります(と言ったって一杯とは名ばかりのまったくのマネ事)。でも、恥ずかしながら少年たちはやるのですね。その声出しは、やはり18禁の加藤です。臆面もなくやる男です。

 洞爺湖温泉という温泉街の真ん中の通りを(他の場所でもやっていたように)流していたら、ぼくらは目立つのかな
「どっから来たの」 
「へぇ、そんなカッコでもいいの」
 はじめのひとりが声をかけると、いろいろな高校生が次々に声をかけてきます。10mに1回といってもいいくらい。中には
「お前ら、なにカッコつけてんだよ」
なんてのもたまにはいたけど、どだいそうゆうのは相手にしない。
「ずーと声をかけたいと思っていたんだ、オレたち」
というくらいのすれちがいのご挨拶が温泉街の通りを行き切るまでずっと続いた。この道端の「トモダチ大会」が、旅館に戻ったとたん、加藤にかかると
「やー、38回もからまれちゃって」
となるからスゴイのだ。
「お前、いつからまれた」
(それに、お前、一番先に逃げる男じゃないか)
と声を出すまもなく吹く。吹くの神。オダのあげ放題になる。

 ところがまずいことが起きていた。実際にからまれたのがいたらしい。けれど、ぼくらはそんなことはまったく知らないわけで。部屋で寝そべっていると、猛牛のように柔道部顧問の武田が飛び込んで来た。
「お前(めぇ)ら、なーにやってんだ」
なんと茨城なまりだ。普段でもなまるが、ここは一段ときつくなっている。
「ちょろちょろ、してっからだ」
と全部を言い終わらないうちにパンチがやってきた。それは、まずぼくのところにだ。
「よせよ、もう」
 武田は国体の柔道のチャンプで、手はビッグマックのようにぶ厚い。それが首すじにバーンで、ぼくは吹っ飛んだ。
 ほんとにぶ厚いんだ。慣性重量が働いて、うーん、交通事故だ。

「それはまちがいだ」
と言おうと思ったが、ぼくはあきらめた。脳筋野郎*に何を言ってもムダ「わかってることじゃないか」。
 
 次の日、洞爺湖から札幌に戻る列車の中、ぼくらの車両のドアがガラッと開いた。なんと、突然、馬太男です。
 ぼくらのシートまでやって来て
「おーい、ここ、空けろ」
 隣にどかっと座るとすぐに、
「煙草、あるか」と言うのです。
 ぼくは煙草は吸わないので、(確か)加藤に
「おい、出せよ」
 というとスグに出した。(実のところ加藤だって、ホントに吸っているわけじゃない。けれど持っている)

 ぼくは、シャレで、2本まとめて出すと、馬太男は
「お前らな、口の先で、吸ってるからだめなんだ」と人指し指と中指の間に1本、中指と薬指の間に1本、2本をいっぺんにはさんで吸い出した。
 すごい煙りで、顔の前にノロシが立った。

 馬太男は50才くらい、白髪で鼻が高くて、仕立てはいいのだと思うけれど、大分くたびれた(ギャバジンの)背広を着ていた。そんなおじさんだった。なぜかすごい白い煙りのカタマリさえ、よく似合う。

 ぼくは、「ぼくも吸います」と言って、吸ったことのない煙草に火を点けた。すぐにぼくも、オレも、とまわりの10人くらいがそろって吸いはじめる。もっともっとすごい煙りのカタマリになって、もう箱中がもうもう。
 馬太男は、そのど真ん中でにこにこしていて、まるでインデアンの酋長だった。
 インデアンのタバコの回しのみ、酋長は真ん中にいる。ジョン・フォードなら、ここでニコニコでカメラを回している。

 車両のウシロ半分が(2、3列、空シートがあって)京都の女子校の席席だったのだけど、向こうの先生方はすっかり慌てていた。そりゃあ、そうだ。先生のなん人かが壁になり、ぼくらを見せないようにした(気がするなあ)。
 
 ぼくらは、そんなことお構いなし。

「お前らな、上野のナイルって喫茶店、知っているか」
と話しをはじめる。どうやら馬太男は、上野の“文化不良”だったらしい。作家とか、絵描きとか、役者とか、いずれにしろタマゴばっかりの生活だ。
「ナイルのコーヒーが上野で一番美味しいんだ」
「そしてなあ、大きなスピーカーがあって、音楽を聞かせるんだよ。
 それを聞きに、みんな集まるんだ」
 心地よい“文化不良”のノスタルジィを話してくれる。

 でも、まあ、そんなことはどうでもいい。馬太男は、煙草を吸い終わり話し終わると、ゆっくり悠然と車両を出ていった。

 ぼくは、背中にパチパチパチと拍手をした。少し遅れてみんなが拍手をした。だんだん音が大きくなった。馬太男は、「なんだ」とほんの少しだけ振り返った。
 ぼくは、わかっていた。馬太男は、パンチされたぼくをなぐさめにきたことを。あー、はじめての煙草は目にしみる。


*脳筋野郎:脳味噌が筋肉に変化した特異な体質の人間の総称。思考と行動が短絡的になり、しばしば勘違い事故を起こしがちなのだが本人は一向に自覚(症状)がない。
0 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2026年04月>
日 月 火 水 木 金 土
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930