「ここは、シャバじゃない。じゃあ、どこなんだ」
「はい、警察です。警察の鍵のついた特別な部屋に入れてもらっています」
ガシャーン。
「お前ら、ここで待っとれ」
とお巡りさんが言うものだから、ガシャーンの中にいます。
○
その日は、他にもたくさんの学生が警察にいました。学校の中でデモの練習をしているのだが、これが我慢できない。ワッセ、ワッセ、通りに出る。
「あなたたちは、都公安条例に違反しています。いますぐデモ行進をやめないと、条例違反により逮捕されることになります」
待機した機動隊から、DJポリスの元祖が注意をします。
ピーッ、高らかに笛が鳴ると機動隊は一斉に駆け出し、いざとばかりに学生を追い回します。バタバタバタバタ、突然の路上の追いかけっこ。
ぼくは、直れ、ぼくと石川は、学生会館の玄関前で立っていた。
ぼくと同じクラスの石川は、その時「尺八研究会」に入ったばかりだった。どうにも変な奴だ。「尺八研究会」の部室は学生会館の中で、いつものように玄関脇に出て練習をしていたのですね。
ブォーオ、ブォー。
「おい石川、尺八の楽譜ってどうなってんだ」
などとやってきたぼくは声をかけた。そこへ、
○
ピーッ、笛がなり機動隊がこっちに突進してくる。石川は驚いた。
「おい、おい、なんだこれ」
石川は、驚いて大事な尺八を右手に握りしめ逃げようとした。
握った手を振った、これが、いけなかった。機動隊の隊長にすれば
「なにか危険なものをかざした学生がいる」
となる。
「危険だ、あの学生、拘束」
指揮棒でぼくらを指した。
まさかね、尺八なんてものが日常に存在するとは誰も思わない。夢じゃあるまいし。
隊長が勘違いするのは無理もない。わかるよ。そして尺八の世間話をしていたぼくと石川は、すみやかに逮捕された。正確には拘束された、と言うのかなあ。
○
石川は、「尺八の人」らしくハコ(部屋の別名)の中で大人しくしていた。胸には虚無僧よろしく「明暗」と明朝体で書いてあったような気がする。なわけはないかな。
学生が次々にハコに入ってくる。満杯に近くなる。あきると学生らしく歌になる。
「おい、ウルサクするなよ」
と警察官は言うものの学生のすることには、大甘だ。
インターナショナルがまず歌われる。定番だ。
「起てー、飢えたる者よ」
のアレですね。しまいに大合唱になりそうになると、
「おい、いい加減にしろ」
と大声で注意が入る。なぜか官は、インターナショナルが大嫌いだ。インターは、官の「歌の天敵」だ。
で、順番に(小さな声で)いろいろな歌を歌うことになる。
○
ぼくは、順番がくる前に、石川にある曲を仕込んでおいた。
「おい、これだけだから覚えておけよ」
順番がきた。不器用そうな石川がうまくできるか不安はあったものの
「はじめるしかない」。少しだけ体を上げ(立ち上がると怒られる)二人で歌いはじめる。
(頭にコーラス、原曲はフランス語です)
ラ〜、ラ〜、ラ〜、シャバダバダ、シャバダバダ
ラ〜、ラ〜、ラ〜、ラーラ
ここは、シャバじゃない、シャバじゃない。
外は、シャバ(だば)だ、シャバ(だば)だ。
ル、ル、ル〜。
(そうだ、ここは、シャバじゃない)ということに、やっとみんな気がついた。
年配の警察官も遠くで笑い出していた。
○
ぼくと石川は、夜遅く解放された。尺八の楽譜は、経本折りの本にお経のような記号が書かれたものであることを後日、石川から確かめた。
(僕らの学生時代は、こんなユルイ話しがたくさんあった。おもしろい時代だった)
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