太多亮は関テレを退社した。
「フジ関連社への引き合いがあったとしたらいかがでしょうか」
記者が太多を追い討ちするように質問をした。
「いやあ、もうぼくは関わることはないでしょう」
これが最後の質問になり、空白に向い頭を下げ、会見を終えた。
1
(けれどなあ、ぼくは、ひとつだけやることがある、あるさ)
記者の質問に答えながら、
(いまさら血相を変える年でもないしなあ)
と繰り返しながら太田はやり残したことを反芻していた。
(ひとつだけ)と言えば、文字通りひとつしかない。
示談金の出どころ、そして中居の中抜きだ。
金額から中居の取り分が発生していると聞いて、太田は驚いた。
「だってさあ、俺が一番、迷惑したんだベェ」
「馬鹿げてる。こんな馬鹿のために、俺たちはなにを捨てて生きてきたんだ」
偽装した示談金が振り込まれた日、これ以上もない抜け抜けと発された「中居の声」を後から(秘密裏に)聴かされた。瞬間、中居の声、表情が花火のように広がった。
(バカヤロー)
こころの声と同時に拳を振ったが、もちろん目の前には誰もいない。
2
示談金のやり取りの時は、太多亮は関わっていない。
「太田、関テレに行ってくれや」
という社長の港からの一声でフジから離れることになったことは前回、書いた。示談金のやり取りは、その後のことだ。
フジから中居の事務所「ゆっくり・なかい」に大きな金額が振り込まれ、大塚弁護士によって、中居が決めた通り切り分けられ配分された。
「中居さん、すべてすみましたから」
「あっちの方はNさん通しで、社長に報告してもらいます」
「はぁ、どうもね」
犬の吐瀉物のように匂い立つ示談金は、こうして処理されていった。
3
「第三者委員会、時間のない中でよくやっています。やってはいますが示談金のところだけ不明瞭ですよね」
「警察じゃないと無理なのかなあ」
「だからなんですよ。第三者委員会は警察に中居とN嶋を告発すべきだと提言しておくべきだったんですよ」
「そうすれば、警察はまずはじめに金の流れを読み取りますよ」
「なにかギャラの中に混ぜて、フジが入れ込んだという情報がありますよ」
「だとすると中居はまったく腹は痛んでいない。なにが反省だ。馬鹿馬鹿しくて、聞いてあきれるわ」
「それが実態なんですよ。上から見ても、下から見てもヒデェ話なんだ」
―元の職務上の習慣で(推測は滅多にしない)二人の警察OBが話している。
いまや話の焦点は示談金の動きになっている。なにか情報を受けたと考えるのが普通だろう。
4
「なあ、太田。これがいつかフジの命取りになるんじゃないかと思うよ」
「会長も、そう思われますか」
「あまりにも筋が悪いもんなあ」
「…えー、まぁ、その通りで」
「あんな小僧に、命綱を渡すなんてなあ、おい、どこであいつを信用できるんだ」
「できません。きれいに始末したのならともかくですが、中居が自前の分を取った。
これが後々までもめる種を抱えたままになりますよ」
「そうなんだ、太田。金だけ出して、口は出していない。一見いいようだが、ただただだらしがないだけのこと。たれ流しだ」
「ぼくがいたら承知しなかった、ですけど、残念です」
5
(前のやり取りから1年後)
「やはり、こぼれたなあ、太田」
「しょうがないところまで来ました」
「行き着くところ、あの金ですよ。中居が関わっていて、振り分けている。そんな馬鹿な話が通るわけはないですよ」
「中居に蓋をするんだが、どうしたらいいと思う」
「まず引退させるんですね。そーして、フジでは中居に関わった人間を全部、やめさせるんです。そおしないと、中居にいつまでも、(あの時のと)声を立てられるんですよ。キリがない」
「そうか、それでやってみるか」
「他にないでしょう」
6
太田の最後のリークはすでにはじまっていて、裏どりが完全にできなくて止まっている。もう一段階進めば割れるように出てくるだろう。
「太田ぁ、こいつは仕方がないか」
「仕方がないですよ。ただし他の騒動に巻き込まれないよう、そこだけは注意しましようよ」
「まぎれるとなあ、ややこしいからなあ」
「太田ぁ、フジは金がありすぎたのかなあ」
「そうかもしれませんね。金がありすぎると、若くても人はみんなジジイになるんですかねぇ」
「そうかも知れん。気持ちの良いジジイってのはいないもんなあ」
「もうすぐ大分片付きますよ」
裏どりはどんな形で出てくるだろう。
日本社会の通例として現物は出てこないだろう。契約書であったり、振り込み票であったりという原票はむづかしい。しかし、上の二人の声はほぼ事実をなぞっていることになるだろう。
「太田ぁ、長かったなあ」
「会長ッ、最後だけは良いことをしたと思ってください」
「そーかぁ、そう思うかぁ」
7
(街の画の中、流れる)
そしてこうして暗い夜 年も忘れた今日のこと
街にゆらゆら灯りつき みんな祈りをするときに
懺悔の値打ちもないけれど
8
「税金ですよね、中居のやつ、税金を相手に押し付けて、本人けろってしていたらしいですよ」
「いよいよ不手ぇやつだ。あんな野郎、どこが良くて人気があったんだ」
「(そんなにもらっていない)という調べの女性の声がはじまりだったらしいですよ」
「それにしても誰がリークしたんですかね」
「…こればかりは、わかんねぇだろう」
(私は話してみたかった)F.out
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