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2024年11月11日02:39

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「変わらんのは、うちだけじゃ」

『坂の上の雲-9』を見た。
 これで3度目になるのだろうか、正岡りつは東京に帰るジュンさんを浜まで送る。

 道々、りつは答える。
「兄(あに)さんは、うちが必ず直して見せます」
 こう言えるから女の人は偉いんだなあ。つくづく感心する。一心ということなんだろう。大事なものは大事なんだ。いつも簡単な理屈で生きている。という言い方をすると「馬鹿にしている」と言われること多いが、けれど
「じゃあどんな立派な理屈で生きているの」
と言われればもう打つ手はない。くだらないことで生きている普通の馬鹿な男です。はい。
 
「りつさんには、正岡家の跡取りを産んでもらいたい」
「あっしのことはいいです。ジュンさんこと、なして結婚しないのですか」

「あっしは軍人じゃけ、お国に命を預けちょる身です。結婚なぞできません」

 この一言でりつは、付き物が落ちたようにこだわりから離れていく。
(ジュンさんは、あっしとは違うものになったんじゃ)
とこころの中に浮かぶ。松山の空に重なる秋雲の砂のように浮かぶ。

「ジュンさんは、会うたびどんどんエロウなる。 
 変わらんのは、うちだけじゃ」

 兄(あに)さんの看病ばかりしていて、何も変わらぬ人生を送る自分の姿を語ったものと、画面からは素直に理解できる。
 さあ、そうなのだろうか。
「変わらんのは、ジュンさんを好きなうち(のこころ)じゃ」
と言っていることに数秒たって気がつく。そうだ、そうだったのか。そういう言葉だったのか。

 人は、こうしてスレ違いながら生きていく。

 スレ違うとき、すーっと「体の中を風が吹く」ような感触があったりするのだが、ほぼすべての人は振り返ることができない。人生というのは慣性が働いていて、そのためにホントを見落とし行き違い、手遅れを繰り返す。

「わしは、ばあ様に育てられたんじゃ。(豊後竹田に居る)ばあ様に写真を送るのがいちばんの孝行だと思うんじゃ」
 立派な軍服姿で写真館を訪れた広瀬少佐は軍服を脱ぐと、やにはに褌一本になる。
「さあ、どうじゃ」
 カメラ前に立つ。こういうことなんだ。こういう簡単な気持ちで生きている男だけが、スレ違いをせずに生きていける。何かこう、答えを出された気がした。

 突然、俗だが「東京バナナ」が思い浮かんだ。
「東京バナナ」より、写真の方にホントがあるのか。右の手に「東京バナナ」、左手に写真をのせたらどっちが重いんだろう。実に馬鹿なこと言っているようだが、そうでもないと思う。やってみると、軽はずみな人生が少しリアルになる。

 ただし、写真の正しい重さをわかるようになるには、少し人生の時間が必要か。「東京バナナ」と写真を手にしたぼくを見て
「おまん、何しちょるの」
 広瀬武夫はあきれることだろう。

 りつは以降、ジュンさんに会うこともなく時代が過ぎて行く。
 さほど多くないが子規の「病期見舞いに来た」、という記録だけは残っている。
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