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2024年10月21日01:45

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西田敏行と「タイガー&ドラゴン」。

○2006年10月02日の日記を加筆修正、再掲載


 西田敏行は深い。どうにも奥行きが深い人間なんだ。
 その深さを『淋しいのはお前だけじゃない』だけですますのは片手落ちのような気がするので「タイガー&ドラゴン」の文章を再掲させてもらいます。
 まさに西田の渾身の芝居なことは間違いないし、放映の時期からいっても、こちらの方が知っている人は多いのでしょう。

 本編と劇中劇が入れ替わる「繰り込み人形」のような仕組みは、『淋しいのはお前だけじゃない』を参考にした、と作者の宮藤官九郎、自身が語っています。「繰り込み人形」、クルリクルリと入れ替わり文楽の人形のように運命の糸にひきづられたどたどしく動いていく人物。どこか日本の古い表現を感じるドラマでした。
「おーい前節、長いぞ」
 はい、すいません。林家亭どん兵衛師匠の出番です。

                ○

「タイガー、タイガー、じれっタイガ〜」

 いつものように小虎(ことら)こと長瀬智也の振りのギャグから現代落語ドラマ、TBS「タイガー&ドラゴン」の最終回は、はじまります。

「ねー、どんちゃん、小虎はきょう出所なんでしょ。迎えに行かなくていいの」
「だって小百合ちゃーん、小虎はみんなに迷惑をかけちまって、もうこの世界には戻れない男なんだ(けれど手には、出所を知らせるハガキが握りしめられている)」
 どんちゃんとは西田敏行演じる、林家亭どん兵衛師匠。
 小百合ちゃんは銀粉蝶のかわいい、どん兵衛師匠のおかみさん。

 落語家を目指した、林家亭小虎こと長瀬智也は八方破れの現代落語で目が出そうになるのだが、元のヤクザ世界のもつれから、刑務所づとめ。きょうはその出所日。けれどさあ、落語もヤクザも破門になっていて、帰るところがない。

 広い東京だけれど、エーン、行く当てのない小虎が気になって仕方ないどんちゃんとさゆりちゃん、ふたりのやりとりは、しだいに落語「子別れ」に移っていきます。

 落語「子別れ」は、三遊亭円生が新宿末広亭の最前列に座るぼくにまるで語りかけるように演じてくれた話しでした。ぼくはその頃は中学生で、トリ(主任)が円生というのでかけつけた。そしたら延々40分話しかけるように演ってくれたのです。ぼくはその日から「三遊亭円生が一生、好きになった」し、「子別れ」は、ぼくの話しだと思っていたのです。

 その「子別れ」が、テレビで、それも現代の視点で演られる。
「うれしいような、悲しいような」それは複雑な気持ちでいたのです。きんさん、ぎんさんの気持ちがよくわかります。

 ところが、どん兵衛師匠が女形で、出て来ました。あの西田敏行が丸髷を結って、(怪獣のように)出て来たのです。
「これはもうテレビじゃない、テレビを超えた何かがはじまった」
カラダ中がゾクゾクしてきました。

 そうして、さすらう小虎の後を追うように、ドラマ全体が現代と江戸を行ったり来たりしはじめた。

 ぼくは「近代と村を行ったり来たりする、生きてるタイムトラベラー寅さん」とか「戦後民主主義の中での人情の位置を、ひとりひとりが確かめて欲しい」というのが、寅さん映画の「作者の視点」だとか、何度か寅さんのページで書いてきたのだけれど、現代の座付き作家・宮藤官九郎も同じことを見事にやってくれている。

 なんと落語に乗るとビユーンとタイムスリップがはじまった。

 どん兵衛師匠は女房のように小虎を恋しがり、
 小虎はどうにもならない自分にすねている。

 時空間を超えてふたりの魂が、ギューン、ギューン、浅草の空でスレ違う。

「人情ってなんだ」
「親子ってなんだ」
「いまこの世の中で、いったいどうなんだ」
と見る人を追い詰めていきます。

 そして丸髷姿の西田敏行に、円生が前をみつめてはっと息を飲むように語ったあのセリフ
「えー、そうかい、お父っつあんはバクチをやめたのかい」
と言われた時には、(ドッカーン、あっ、魂がぶつかった)、円生師匠が宙を飛び、中学生のぼくが顔を出し、西田敏行お母っさんにヒザ詰めにされ、アレもコレもこんがらがって、コングラチュレーション。こころのほとんどが熱で溶け、人情になっちゃった。

 もうとても涙なしには見ていられない。

 最後の「バスガイド・キャバクラ」で、たくさんのバスガイド姿のキャバ嬢が並んだその足もと、まあるいPタイルのフロアの真ん中で、長瀬智也と西田敏行が行き違いを許しあうように、寝転がって、寝転がってもつれあいながら抱き合っているところなんざあ、もうことのほかのうるわしさ。そこに、あやしげなピンク・ライトがピカピカピカ、
「もういい、もういい」
「一生そのまま抱き合っていてくれ」
と、ただただお願いしたくなるのです。

 そうだ、そうだ、人は一人じゃ生きられない。わかったから泣くのです。

 ぼくは落語「子別れ」を知っていた。でも、「タイガー&ドラゴン」は作れなかった。そうだねぼくは「子別れ」を知っていた人にすぎなかった。少しさみしいけど、「いいもの見た」とうれし泣きをしながらガマンをするのです。
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