句会の話です。いっとき句会が大変に流行った時がありました。だいぶ前ですよね。もうあちこち。その中で、変哲(小澤昭一)師とか、吉行和子、冨士真奈美の2大女流なども登場、いまもよろしく続いたりしているのもあるのです。
「あたしらも句会をはじめましょうよ」
「あるんです場所、青山の、春には桜ちらほら寿司屋の二階」
この見おぼえのあるくだり、前にも書いた通りでCMディレクターの馬場クンがぼくに句会を持ちかけてきたのです。
「待ってました、シメこのウサギ。いいねぇ、この色男じゃなくて色黒男、ホッペ、ペンペン」(馬場クンはほんとに色黒なんです)
ともかくもぼくは、二つ返事でこの話に乗って、俳名を即決(不動産屋じゃないだろう)で、直次郎としたのです。
「なんだい、えっ、このシメこのウサギってのは」
はい、こちらは辞書でも引いてくださいな。落語では、なかなか活躍する言葉です。
で、馬場クンの方ですがね、すでに俳名を持っていた。よせやい、早すぎだろう。これが「素鳩」と言う名前。ここから話が始まります。
ぼくと馬場クンの早稲田の先輩でカメラマンの人がいます。早稲田でカメラマンとはいかがなものか。いいえ、いかがわしいものではありません。慎平さんこと、浅井慎平さんです。
慎平さんが仲間と句会をやっていて、この文化人サークルにモグリ込めないかと馬場クンは一計を案じたのです。で、紹介などをいただいて参加で話がまとまると俳名をやたらしつこく検討、あの「素鳩」と決めていよいよ当日になります。
会場(実は同じ寿司屋らしい)に行くと、句会というのは書記とヨミ役というのがいるのです。
馬場クン、短冊を書記に差し出して、離れようとすると
「この俳名(素鳩)、そきゅうでいいですかね、読みは」と声がかかった。
「ギクッ、、あのー、そはと、と読んでください」
何しろはじめてなんでビクビク、おずおずと答えると隣のヨミ役から声が出た。
「ほほー、マイルスですね」
(来たよ、来たーッ)
ここ、ここが男のやらしいところ、しかも人一倍やらしい馬場クンです。「それは、それは……」と言われをウンチクを語りたくてウズウズします。ウズウズが顔の皮膚一枚まで、立ち上ったところで、またあの人です。
「マイルスの “So What” とは、やりますね」
馬場クン(はい、そうです。“So What” が、素鳩(そはと)で答えの全部です)と即答です。
ところが、「パパパッパー、パッパッパー」クチマネ・トランペットで “So What” らしきものをワンフレーズ。これがどうにもうまいからたまらない。トランペットで魂の追い討ちです。
書記のテーブル辺りが受けているのを見て慎平さんが寄ってきて声をかけました。
「あのー、その人、ジャズ研出身なのよ、トランペットも吹いてたみたい」
「なるほどね、それじゃあ “So What” もわかるはず。クチマネ・ペットも、まんざら素人じゃない」というよりうますぎか。
さーて、 “So What”の余波もあり、ジャズマンも来てることもあり、その夜はジャズ駄句で終始したそうです。
(ぼくが変わって再現します)
青山通り アート・ブレイキーが キッキッキーッ
エレベーター マイルスどこに 隠れてる
ジャズ駄句が読まれるたびに、例のクチマネがパッパッパー。他の楽器も次々出てくる出てくる、キリがない。仕舞いに、振りさえついてくる。馬場クンときたら早くも立ち直り、第二ラッパでついていく。馬鹿が騒いで、馬鹿騒ぎ。
というような夜でした。
ヨミ役の人ですが、これが遠く九州からやってきたばかりの居候。慎平さんは当時、原宿のセントラルアパート(1階だったかなあ)にスタジオ兼事務所を持っていました。クチマネ・ペットのヨミ役さんは、慎平さんの事務所に泊まり込みだそう。で、この日のようにヨミ役のような雑用は「お任せ下さい」になるのです。
それからしばらくして慎平さんは、
「居候ねぇ、いそドンだけどさあ、このままじゃいけないよね」
と、さる大家(たいか)に居候の住み替えをお願いします。
「山下たちから頼まれたんだけど、ひとつ頼めないかな。面白いのは大したものだから考えてくれないか」
こうして居候の住み替えという落語みたいなことが起こりました。
この大家(たいか)の名前を言えばこのストーリーの結末はすぐにわかります。なるほどなあ、ですよ。
カンのいい人ならそろそろ気がつきはじめたでしょう。
早稲田でジャズ研で、ほら、ほら、ほら、はーい、タモリさんのわかい時でした。当然、大家(たいか)は赤塚大先生で、ここからご存知の大進撃がはじまります。
それに付けても、ぼくらもあきれるほどにわかかったなあ。
ログインしてコメントを確認・投稿する