色川武大を調べていたら、もうひとりの色川さんが出てきちゃった。
これがねぇ、あまりに遠いし、あまりに遠いのでもしかしたらぐるっと回って近しいのかと思うほどの悩ましい人物です。
その名は鈴々舎馬風、本名、色川清太郎、色さんです。通称は鬼の馬風で、見るからにゴツイ見栄え、柔道二段。笑うと鬼からこぼれる愛嬌もまあいいか、というような落語家です。(鬼の馬風は五代目で、いまの馬風は六代目、元柳家かゑるで、かゑるの馬風)
芸風と言えば掟破りののガサツさが芸と言おうかな、これが次々とハレンチをするから面白い。
ま、ま、こんな調子です。出囃子に乗って堂々と登場する。座ると客席に向かいニカッと笑い、何をはじめるかというと
「おーっとそのまま、そのまま」
高座の上で手を広げ、大きな声で
「いま警視庁から、場内にひとりのスリが入ったと連絡があった」
「動いちゃいけねぇよ、動くとスリってことになる」
「だからね、俺の話をゆっくり聞いて、それから帰りゃちょうどいい」
「………客席」
少し間を置いて
「よせやい」
いい間だねぇ、江戸前だ。
「俺は、ホントのことはそうは言わねぇよ」とぽろっとオチにする。そもそも「そのまま、そのまま」は江戸以来の禁句、お上の手入れの合図です。客をゾッとさせてどうすんだ。
この「場内にひとりのスリ」のツカミは明治以来の話芸でたくさんの芸人がやったのらしいが、様々見る聞くすると鬼が一番なようです。
ハレンチ芸の代表が、刑務所慰問のまたまたツカミ、満員の収容者を前に
「よく来たな、満場の悪漢ども」
とやらかした。これは、アチコチ登場する有名なセリフ。刑務所にいるのだから善人とは言いかねても、悪漢どもはさすがにやりすぎだろう。とはいえ「馬風の馬鹿が」と収容者も百も承知で、その場はなんとか終わったそうです。
ゴツイ風采に愛嬌というのは、どうしてか女性にモテるタイプのひとつらしい。巡業先でアコーディオン弾きの女性と仲良くなった。
「よしなよ、よしなよ、俺が持つからさ」と馬風が抱える。よくある点数稼ぎだ。
はじめはいいよ。ところが時間が経つと、これが苦行だ。高座で声もでないほどになって
「今度はアコーディオンより、ハモニカがいい」ときたもんだ。そうは行くかい。
脳溢血で倒れて(回復するのだけど)、後を心配して女房にヨソの女性のこと伝えたら、そしたらプイとしたきり看病もやめちゃった。
「こりゃダメだ」
と世をはかなんで、睡眠薬を飲むと看護婦出身の女房にあっという間に吐かされた。鬼もこうなるとからっきし弱いから、面白いやら悲しいやら。
高座に復帰したのだが、転倒したのが原因で、いよいよがやってくる。そこでかつての得意の決めセリフが生きてくる。
「友よ、サラバ」、この人は決めセリフの名人だったのかもしれないな。
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