フー子さん、お元気ですか。ずいぶんあなたの歌声を聴いていません。
とはいっても、ぼくはあなたのことは何も知らなくて、ただあなたの声だけをよーく知っています。元気でしたら、いまどんなお声ですか。あの響き、あの揺れは。
遠い世界に 旅に出ようか
それとも 赤い風船に乗って
ぼくはフー子さんほど心に残る歌声を知らない。
フー子さんは藤原秀子というのがホントの名前、どうしてフー子になったのか、それもまったく知らない。知っているのは、五つの赤い風船というフォーク・バンドのリードボーカルだったこと。
歌い出すと、ハスキーで低い響きが広がっていく。響きがやがてあたりをすっかり満たしてしまう。チェロが奏でる通奏低音のようにね。空気の中をやさしい何かがほどよい濃さで広がると、会場の中に“世界”が生まれる。そうだフー子さんの声は“世界”を作り出す声だ。
雲の上を 歩いてみようか
太陽の光で にじを作った
楽器で言えば、響きで世界を作り出すチェロなんだ。
それもカザルスの「鳥の歌」のように聴く人をつつみこむやさしさの声。ぼくは言い過ぎていないと思う。
五つの赤い風船は1967年に結成され1972年に解散した。ほぼ5年間、そう長い時間ではない。解散をすると結婚をされ、特別な時をのぞいて歌うことはなかったようです。ピークは2年少し、僕らが「遠い世界に」聴いたのは、ちょうどその頃。
お空の風を もらって帰って
暗い霧を 吹き飛ばしたい
(そうか解散か。あー、これでフー子さんの声を聴くことは無くなってしまうのだろう)ぼくはそう思った。ぼくは関東に住むわけで、関西の事情を知ることはできないし。
けれど(もう一度、あの声を聴いてみたい)という思いは心のどこかにずーっと残っていた。30年以上もね。(あー、そう言えば、あの歌は)というように。
ところが「花はどこへいったの」の歌詞を追っていると偶然だが出会ってしまった。2013年にフー子さんは難病で亡くなられていたのだ。
ひとつの道を 力のかぎりに
明日の世界を さがしに行こう
あんなすばらい“世界”をぼくらはもう一度、聴くことがができないんだ。なかなか人生は苦い、遠い世界に旅に出ようか。
注1 文中、よく知らないのにニックネームを引用したこと、お詫びします。
注2 ここで試聴→
https://www.youtube.com/watch?v=j9q9WUUFy48
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