日本では全く報道されていませんが，ウクライナでロシア正教【モスクワ総主教系の正教会】の弾圧が行われています。
これを聞いた大抵の日本人は，「一神教は偏狭だ。それに対し多神教や仏教は寛容だ。日本や東洋の伝統はすばらしい」で思考停止してしまいます。相変わらず，キリシタン，バテレンなどの徳川幕府のnegative propagandaの意識のままです。今回の弾圧事件は，このキリシタン，バテレンなどの徳川時代とそう変わらない知識レベルでは，到底理解不可能なので，キリスト教の概要から説明します。
キリスト教には，ニケア信条は，（解釈は異なるかもしれませんが）共通していますが，さまざまな教派があります。現存して教派は，大雑把に，下記の３つの分類されています
�＼省�教会……カトリック＋プロテスタント
��東方教会……ギリシャ正教，ロシア正教
��コプト派
上記以外にも，過去は，日本では景教として知られているネストウリス派（トマス派）などが存在していました。
�，鉢△諒�離は，1054年ローマ教皇とコンスタンディヌーポリ総主教が相互に破門したことが決定的とされています。� ��△鉢�の分離は，451年のカルケドン公会議で分離しています。仏教も宗派があって、宗派のお経を唱えている。救われる為に必要な生前行動も少し違います。それと，同様に�´↓�でも教義や慣習が少しづつちがいがあります。なお，使徒信条を用いるのは�，里澆任后�
ここで，日本人によくある誤解としては，全ての教派に国家を超えた長がいると思い込んでいる人がおおいですが，教皇という国家を超えた長がいるカトリックのみです。カトリック以外の教派は，原則として，国ごとにトップがいます。教会の名前に国家名が入ります。日本では，日本XXXX教会という名称となります。
ここで余談ながら，プロテスタントと正教には，慣習において類似している面があります。
�‘�曜礼拝に使う言葉は，各国の国語を用いる。
（カトリックが礼拝において，各国ごとの言葉を使用することを公式に認めたのは，２０世紀になってからです）
�� イエスの母マリアを神聖視しない。
�６�像崇拝の禁止を厳密に解釈し，教会内にマリア像や聖像がない。
プロテスタント：ステングラス，正教：イコン
�� 聖職者の妻帯を認めている
ただし，正教において妻帯が認められているのは，下級の白司祭に限られる。上級の黒司祭は結婚を認められていない。。
�� 権力に忠実である。これは，聖書における「神に拠らない権力」はないという言葉を重く受け止めているため。
上記の� 銑ザδ姪世里Δ繊ず２鵑了�件に一番影響を与えているのは，�イ痢嵜世傍鬚蕕覆じ⇔蓮廚呂覆い箸いΩ斥佞肪藜造任△襪箸いΔ海箸任后�。
ここで，聖書における「神に拠らない権力」はないということについて，説明します。この言葉は，”ローマの信徒への手紙，13章1-7節”にあります。
1） 人はみな、上に立つ権威に従うべきです。神によらない権威はなく、存在している権威はすべて、神によって立てられたものです。 2） したがって、権威に逆らっている人は、神の定めにそむいているのです。そむいた人は自分の身にさばきを招きます。3)支配者を恐ろしいと思うのは、良い行ないをするときではなく、悪を行なうときです。権威を恐れたくないと思うなら、善を行ないなさい。そうすれば、支配者からほめられます。４）それは、彼があなたに益を与えるための、神のしもべだからです。しかし、もしあなたが悪を行なうなら、恐れなければなりません。彼は無意味に剣を帯びてはいないからです。彼は神のしもべであって、悪を行なう人には怒りをもって報います。5) ですから、ただ怒りが恐ろしいからだけでなく、良心のためにも、従うべきです。 6 )同じ理由で、あなたがたは、みつぎを納めるのです。彼らは、いつもその務めに励んでいる神のしもべなのです。7) あなたがたは、だれにでも義務を果たしなさい。みつぎを納めなければならない人にはみつぎを納め、税を納めなければならない人には税を納め、恐れなければならない人を恐れ、敬わなければならない人を敬いなさい。
上記の箇所がキリスト教において，教会と国家の関係を規定しています。この箇所は，教派により，解釈が分かれていますが，聖（信仰）と俗（政治，国家）を，程度の差はあれ，分離していることが共通しています。
さて，プロテスタントは，教会と国家の関係を「”教会”は神の右の手で、”国家”は神の左の手である」ととらえます。その代表格がルターの「二王国説--教会は神の右の手で、国家は神の左の手である」です。この考えは，”右手と左手がそれぞれ別に動くように，それぞれ独自の王国である教会も国家も，自らの原理にしたがって行動すべき”という考え方です。この考えは，”教会は政治から極力距離を置いて，内面的な信仰に特化すべきだ”という行動原理となり，最終的には，「神に拠らない権力」はないという言葉に忠実であることが，「キリスト教徒は，国家を支持すべきである」と解釈されるに至りました。
ヒトラーやナチズムに対して，ドイツのルター派教会は積極的な抵抗をしなかったのは，この「二王国説」が背景にあります。この「二王国説」を背景とした，「神に拠らない権力」はないという言葉に忠実であるということが，ヒトラーによって，「キリスト教徒は，国家を支持すべきである」と解釈され，愛国心、国防の意識高揚という美名のもとに，帝国主義的な国家政策に活用されてしまいました。
他方，正教も，「神に拠らない権力」はないという言葉に忠実で，教会が「心」政治が「体」という国家観とされています。教義の違いはありますが，正教も，最終的に「正教徒は，国家を支持すべきである」という考えに帰着するようです。ソ連の間は，建前上宗教は禁止されていましたが，わが国の隠れキリシタン（母方の先祖もその中の一人）の様に細々と信仰を繋いでいました。スターリンも「神に拠らない権力」はないという言葉に忠実であることを利用して，正教を愛国心、国防の意識高揚に活用したとされています。これは，両者とも，国ごとにトップがいて，国家を超えた長がいないことも影響しているように思えます。正教は，原則として１国１総主教庁です，
教義上からすると，両者にはいろいろな違いがあると思いますが，プロテスタントと正教会は聖書にある「神に拠らない権力」はないという言葉に忠実であるということが，嘆かわしいことに，ヒトらーやスターリンの独裁者によって，帝国主義的な国家政策に活用されてし舞う結果となってしまいました。
これまでは，ナチなどの独裁政権が「教会は，国家を支持すべきである」とする一般論でしたが，ここから，ロシアとウクライナの関係の特殊事情について説明します。正教は国ごとに総主教がいますから，ソ連時代には，ウクライナにある正教会も，モスクワの総主教の配下にありました。
これが，ソ連の崩壊で，ロシアとウクライナという別々の独立国家となりました。すると，当然，ゴタゴタしてのソ連崩壊ですから、当然ウクライナ内では，モスクワ総主教をから独立し，ウクライナ総主教を立てて，礼拝に使う言語も原則としてウクライナ語にしようとするうごきとなりました。なお，1980年迄にはウクライナ内では，ウクライナ人聖職者の割合が多くなったこともあり，ソ連崩壊前からウクライナ内の正教の聖職者や教徒は、モスクワ総主教から分離する傾向が強かったそうです。
この背景には，正教会全体が20世紀中盤ごろから，「正教の離散」という問題に悩まされています。建前上，正教ではすんでいる土地ごとに総主教（１国１総主教庁）がいます。ところが，20世紀中盤ごろから土地ではなく，各民族ごとに教会を管轄する傾向が強まっています。つまり，同じ国家や土地に複数の正教会（異なった総主教庁に属する正教会）が存在することになります。プロテスタント教会といっても，アメリカ系，イギリス系，ドイツ北欧系が混在しているのに慣れている日本人からしたら，何をつまらないことで争っているんだといいたくなりますが，当事者にとっては，死活問題のようです。
しかしながら，ウクライナ内の正教が，ロシア正教から独立承認の審議会がなかなか開催されなくて，ウクライナ内の正教会は，相当にいらだったとのことです。独立承認は,コンスタンチノープル総主教庁の承認が必要ですが，ロシア正教会がウクライナ内の正教会の独立に反対だから審議に出て来なくて長引いた。紆余曲折の末，コンスタンチノープル総主教庁は，独立承認。しかしながら，これに反発したロシア正教会は，コンスタンチノープル総主教庁を含めウクライナ正教会を承認した正教会と断交したとのことです。
コンスタンチノープル総主教庁がウクライナ正教会を承認したしたのは，色々と複雑な政治背景があるようです。一つだけ言えるのは，コンスタンチノープル総主教庁は，１国１総主教庁にこだわり，各民族ごとに教会を管轄することに非常な抵抗を示していることです。
独立した今、ウクライナが国家として守護するウクライナ正教会は【キエフ総主教をtopとする】ПЦУ（直訳すると正教会ウクライナ）英語だとOCUオーソドックスチャーチとなりました。
なお，このウクライナ正教会の独立に当たっては，信者の献金の分配をめぐって，旧ソ連諸国にある正教教会との争いがあったとされています。ウクライナ国内の信者からの献金は，自分たちで使いたいという所でしょう。
日本のような単一民族，単一言語の国では，上記のような教会の分裂が起こっても，政治問題化することはありません。ただし，地続きの大陸国家ではそうはいきません。ウクライナ国内の住民の30%以上は，ロシア系。「私はロシア語を話します。ロシア人と自覚してます。 でも国籍はウクライナです」という何代にも渡ってに住んでる人が結構多いです。特に，ソ連時代に，レーニンによって強引にウクライナに編入されたノボロシア地域（ロシア系住民が多い）では，顕著です。また，ウクライナ系であっても，ウクライナ語よりもロシア語のほうが得意という方も少なくありません。
上記のような状況ですと，ロシア系の方々，および，ウクライナ語よりもロシア語のほうが得意の方々は，礼拝に従来通りロシア語をつかうモスクワ総主教に属する正教会に行きたがるわけです。したがって，ウクライナ国内には，キエフ総主教に属するウクライナ正教会と，モスクワ総主教に属する正教会とが混在することになります。ここで混乱するのは、ウクライナにある正教会は，モスクワ総主教に属していても，【モスクワ総主教を頂点とするウクライナ正教会】と呼び、ロシア正教会とは呼ばない所。ウクライナが国家として守護するウクライナ正教会は【キエフ総主教をtopとする】ПЦУ（直訳すると正教会ウクライナ）。
ロシア系の方々，および，ウクライナ語よりもロシア語のほうが得意の方々が，【モスクワ総主教を頂点とするウクライナ正教会】に行きたがる気持ちは，私には，よくわかります。私は日本の外では英語の礼拝に参加していました。いわば，祝詞に相当するところは，英語で平気ですが，英語の説教は，意味はわかっても，右の耳から入ったものが左の耳に抜け，左耳から入ったものが右の耳に抜け，なかなか腹に落ちません。このemotionalレベルの理解は，母国語以外では，非常に難しいもものがあります。
さて，前にも述べましたように，ネオナチのような国家主義者からすれば，ヒトラのように，「教会は，国家を支持すべきである」のが当然。特にマイダン以降，国策としてのウクライナ語義務化（ロシア語ヘイト）およびウケライナ国内に旧支配国の影が残る物は極力排除方向となりました。したがって，ウクライナ国内にありながら，ロシア語を使い，モスクワ総主教に属する正教会およびその信者は，国家に対する反逆者，排除すべき異物とみなすのが当然。したがって，今のウクライナ政府が，【モスクワ総主教系の正教会】を弾圧するのも無理もないです。
他方，ウクライナ正教会は，ウクライナ政府のウクライナ政府の宗教弾圧政策を否定するどころか，積極的に肯定しています。これは，【１国１総主教庁】の原則に基づき，各民族ごとに教会を管轄することを認めず，「ここ（ウクライナ）は，私の家（ウクライナ正教会の教区）なんだから，【モスクワ総主教系の正教会】は，出て行けと言うのが彼らの大義名分です。これらの背景から，今回の戦争をモスクワ総主教庁が是とするのも，今もウクライナに残る【モスクワ総主教系の正教会】の信徒を守るという観点からすると，やむをえません。
いやはや，【モスクワ総主教系の正教会】に弾圧については，この背景が複雑すぎて，私が理解できたのもここまでです。正教の慣習や現在抱えている問題を理解しないと，到底，本当のことはわかりません。改めて，「この紛争は一国の国境が隣接国の武装軍隊によって侵略されたという簡単な事件ではない」ということが分かりました。
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