アスガー・ファルハディ監督最新作『英雄の証明』

　アスガー・ファルハディ。ぼくにとっての「新作が発表されたら何を差し置いても観ないと気が済まない監督リスト」の筆頭に記されている監督である。公開二日目の今日、さっそく観に行った。今はその帰りの電車のなか。
　拾った金貨を自分のものにせず持ち主に返したことから、メディアで“美談の英雄”として祭り上げられる男の物語。しかし主人公がSNSに翻弄されるなどという薄っぺらなストーリーではなく、誰だって他人に認めれれば口が軽くなってちょっと“盛る”こともあるし、そのことを嘘をついたと責められれば認めつつも腹も立つという、人間が誰でも持つ色々な側面を描きだす深い作品に仕上がっている。それは『別離』や『セールスマン』でも見られるように、大事件が起きているわけでもないのにサスペンスを感じさせる。これぞアスガー・ファルハディの真骨頂。この作品が今年のアカデミー賞候補にならなかったのが不思議なほどである。すでに二度のオスカーに輝いているから外されたのだろうか。
　それはともかく、イランでは服役囚に休日が与えられ、自由に家に帰ることが許されているらしい。まあ、罪の深さにもよるのだろうが、それでもそのことに驚いた。