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2017年08月25日23:56

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新譜之雑談帖(その414)―ベーム/バイロイト祝祭管弦楽団・合唱団の第九

泣く子も黙るバイロイト祝祭歌劇場は、ワーグナーの楽劇のみを上演する場所、でありまして。只、例外としては色々な節目の折にベートーヴェンの第九交響曲が演奏される、のは周知の所。古くは1951年・1954年のあまりにも有名な、フルトヴェングラーによる演奏、最近ではティーレマンによる演奏が知られているかと思います。

さて往年の巨匠、カール・ベームもワーグナー生誕150周年、没後80年の記念の年である1963年に、バイロイトで第九を演奏しているのは、ベームの演奏に関心を抱いている人ならば、これまた先刻ご存知の事と思います。
わたくしが大学生時代、今日の様に輸入盤が広く行き渡る前、ごくマニアックな愛好家のみが手を出す対象であった頃(現在も健在である某塔音盤店、某親方之声音盤店はぞは影も形もなく)、小さな輸入盤専門店―わたくしが名前を憶えているのは、神田神保町のミューズ社、駿河台下のハーモニー(だったかな)、或いは代々木のカッコウ、と云った所でありましょうか―が細々と取り扱っていた時代、そうしたどこかの音盤屋での広告で、見かけた記憶があります。今にして思えば海賊盤であったのでしょうね。

それから月日は流れて幾星霜(大袈裟)、遂にこの実況録音盤が正規の音源から発売される事となりました。ううむ、長生きはするものでありますね(こればっか)。この演奏自体は、これまで耳にする機会が全くありませんでしたので、どんな仕上がりなのか見当もつきませんが、存命中は実況録音にその実力を発揮する、と言われたベームの演奏でありますから、期待したい所。
この時期ベームはベルリン・フィルとベートーヴェンの第七交響曲、第三交響曲『英雄』、ブラームスの第一交響曲、シューベルトの第九交響曲『グレート』と云った、今日でもベームのスタジオ録音の代表盤として知られる演奏を残していた時代。その時代の実況録音。只残念なのは、1957年のクレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団の実況録音盤(テスタメントから発売されたもの)がステレオなのに、こちらはモノラル録音であること。

それでも正規の放送局の音源を用いての音盤化でありましょうから、大いに期待したい所ではありますね。わたくしはベームが御贔屓指揮者なので、期待は嫌が上にも高まる訳でありまして。

此処暫く、先だってDGから発売された”Great Recordings 1953-1972”や、ワーナー・クラシックスから発売された”Early Years”のボックスをあれこれ聴いているのでありますが、前者のシューベルトの第九交響曲のリハーサルは聴き物でありました。比較的淡々と、リハーサルを進めていくのか、と思っていたのですが、非常に細かく意欲的に指示を出しているのでありますね。
ベームのスタジオ録音は、造形を整えるだけの熱気の伝わって来ない演奏、という評が一般的な様ですが、これを聴くとベームの意欲がビシビシ伝わってくる様に思います。

ワーナーのセットでは、ブルックナーの交響曲が聴き物でありまして。故宇野功芳氏は、第四交響曲の演奏を「ブルックナーの干物」と評して居りましたが、決してそんな事はなく。SP録音なので、音の収録状況に限界はあるものの、彫りの深い、厚みのある音が鳴って居りまして。第五交響曲の方は、第四楽章のフィナーレは起伏も大きく、それでいてかっちり仕上がっていて、低音部から突き上げて来るような盛り上がりにもかけていない、非常に傑出した演奏ではないか、と思います。録音が良ければ、巷で頗る評判の良い(わたくしも好きでありますが)ギュンター・ヴァント/ベルリン・フィルの実況録音盤に勝るとも劣らぬ演奏かと。
或いはブルックナーの第四交響曲の、LP時代の国内盤の復刻盤は、出来が良くなかったのでないか、と思います。少なくともわたくしの耳には、干物には聴こえませんでした。 

何れにしましても、ベームのバイロイトの第九は、気力横溢していた頃の演奏でありますから、楽しみにしていてよいのではないか、と思います。


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