『
台北ストーリー』
エドワード・ヤンの幻の映画が公開と聞くと『クーリンチェ少年殺人事件』が思い浮かぶが、他にも幻の作品がある。
長編2作目の本作『台北ストーリー』だ。(特殊上映のみで一般上映は初めてらしい。)
監督であり、シネフィルであり映画保存にも力を入れるマーティン・スコセッシ率いるワールド・シネマ・プロジェクトが4Kリマスターを施したというだけあり、鮮やかさは息をのむよう。
製作・主演・共同脚本を当時『風櫃の少年』『冬冬の夏休み』と製作して勢いのあった盟友ホウ・シャオシェン監督が務める。俳優は専門ではないが、朴訥とした味わいある存在感はプロ俳優にはないものかもしれない。
ヒロインを後のヤン夫人となる台湾人シンガー、ツァイ・チンが演じている。
友人と未来の夫人という近しいキャストの活用もヤン監督らしいのだろうか。
エドワード・ヤン、ホウ・シャオシェンと台湾ニューシネマの代表格二人が揃った貴重な作品なのに、本国ではたった4日間で打ち切りになったとは信じがたいが、高度成長の波に浮かれる世間と内容の苦さが釣り合わなかったのか?
(日本でもバブル景気のころはバブリーな番組が多かったし…)
撮影された80年代は台湾の高度経済成長期でそれが舞台の台北の街並みにも表れている。
アメリカから夢破れて帰国し旧市街で布問屋に勤める男と、アメリカを夢見る上昇志向の女。
同じ景色を見ているようでも気持ちの隔たりは大きい。
見捨てられる古い街並みと、新しく蠢くビル群という時代の潮目を一組の幼なじみの男女で表している。
ビルの屋上にそびえるフジフィルムの看板に当時の台湾が象徴的に感じられるし、日本への思いも伝わるようで興味深い。(そして今の日本経済状況を思うと色んな意味で感慨深い。)
音楽をヨーヨー・マが担当しているのも嬉しい驚き。
エドワード・ヤンは本作を経て『恐怖分子』『クーリンチェ〜』へと向かう。
その感触は確かに通じるものがある。
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