東京国際映画祭、ラスト・スパート!
『ヘヴン・ウィル・ウェイト』
http://2016.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=133
欧州で若い女学生がイスラム過激派に参加するニュースが流れることがある。
決して貧しい家庭でもなく報酬目当てでもないのに、なぜ彼女たちはテロリストたちの元へ向かうのか、さっぱり理解できずにいた。
この映画は、イスラム過激派に洗脳された少女ソニアとこれから洗脳されようとしているメラニーという二人の少女、および彼女たちの家族との苦闘を描いた社会派映画。『奇跡の教室〜受け継ぐ者たちへ〜』のマリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督が綿密な取材を基にメガホンをとる。
カルト教団にも見られるのと同様だが、マニュアルに従った洗脳の手口にはニュースからはうかがい知れない説得力がある。
都合の悪いことをこじつけて、反論を封じ込める手法は経験値の低い若者なら簡単に騙せるのだろう。
テロの仲間になることは決して正当化されることはないと思うが、制作者は頭から結論を押し付けない。
行く道もあれば戻る道もある。それを決めるのは<あなた自身>というメッセージは大人の国だと感じた。
『奇跡の教室』にも出演していてソニアを演じた
ノエミ・メルランの目力の強さが心に突き刺さるようだった。
『ファイナル・ラウンド』
http://2016.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=157
ボリウッドらしい痛快エンタメ。
インドでは2006年までボクシングで世界チャンピオンを輩出してこなかったという。
元有名選手で今はコーチをしているプラブ(R・マーダヴァン)は、才能はあるものの協会と衝突して冷遇される。
そんな折に露店で魚を売る少女マディに才能の片鱗を感じて口説くのだが…。
インドのボクシング界をめぐる様々な実話を基に再構築されたフィクション。
ボクシング協会の権力を傘に着た裏工作や嫌がらせの数々、露骨なセクハラなど次から次へと暗部が噴出。
選手とコーチ、共に社会の負け犬同士が手を取り合って這い上がろうとする姿は多くの共感を得られるはず。
インド映画としては短めの2時間なのにしっかり<インターミッション>が入るのはいかにもという感じで笑った。
演技力よりもボクシングのリアリティが欲しかったということでマディ役のリティカー・シンは現役キックボクサーである。
『きっと、うまくいく』『PK』のラージクマール・ヒラニ監督がプロデューサーを務める。
本国の大スターR・マーダヴァン(俳優)とシャシカーント・シヴァージー(プロデューサー)が来日。
客席には多くの日本在住のインド人が歓声を上げていた。
Q&Aもどちらかといえば、ファン的な発言が多かったなぁ。
年配の日本人の観客の質問で沸かせたのがあった。
「○○県から来ました。実話を基にしているというが、出来すぎではないですか?」
決して映画祭はシネフィルだけが見に来るわけではない。
このお客さんが全部持って行ってしまった。(笑)
『ザ・ティーチャー』
http://2016.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=145
脚本家のペトル・ヤルホフスキーが実際に少年時代に体験した話を、ヤン・フジェベイクが映画化。
1980年代のチェコ。
冒頭で温厚そうな女性教師が生徒たちに両親の職業を含めて自己紹介させる。
一見、普通の光景に見えるが、この女性教師はことあるごとに生徒の親たちを私用に使い始める。
あからさまな職権乱用を当然のように振る舞う女性教師に誰もがキッパリと要求をはねつけることができない。
共産党時代の怖さが如実に描かれる。
彼女の
無自覚の罪は軽くないだろう。
今どきの若い世代には、80年代の空気はピンと来ないらしく、現在少しずつあの時代に近づきある気配を感じた監督が警告の意味を込めての提言だそう。
保護者達が問題の教師を糾弾しようと相談して賛同者を増やしていくあたりまでは、『十二人の怒れる男』の教師版かと思っていたが、そんなに甘くはなかった。(笑)
ラストシーンにドキリとする。
上映後にヤン・フジェベイク監督のQ&Aがあった。
来年はチケット問題で悩まされませんように…。(笑)
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