『ブルーム・オヴ・イエスタディ』 『誕生のゆくえ』

　もう折り返しだけど、ようやく参加できたので失念する前に東京国際映画祭の感想を。


『ブルーム・オヴ・イエスタディ』＠第29回東京国際映画祭

　ホロコーストという重い主題だが、意外にもクリス・クラウス監督（『4分間のピアニスト』）は軽いロマコメタッチで、現在を息づく第三世代を描き出す。
負の遺産を引き継ぐことは大切だし、風化させない配慮もしかるべき。
それは日本も同じことが言えると思うが、どうしても答えがステレオタイプになりがちである。

　戦争体験者がどんどん亡くなって、ナチスのユダヤ人虐殺を語り継ぐものも減っている。
劇中、ドイツでは研究会を設けていてイベントを企画しているがスポンサー問題などもあるようだし、講演依頼を持ちかけられる体験者の女優も押し付けられるワンパターンにウンザリ。

　ある日、フランスから祖母をナチに殺されたという女学生がインターンとしてやって来る。
彼女は祖父がナチの高名な党員だった青年とギクシャクしながら過去の赦しの道を探る。

　先祖の仇を受け入れる＜赦し＞を描く。
ありきたりならば、好きになった相手が実は親の仇だった…みたいな展開にするだろうが、逆の展開にしているのがウマいと思う。
二人は何かと突っかかり、すんなりいかないのも象徴的に示しているのだろう。
過去と未来のバランスのとり方の難しさを軽いオブラートに包んでいるように感じた。

　主演二人のキャスティングが良い。終始この二人に目が吸い寄せられる。
アデル・エネルは本作までドイツ語はまるで話せなかったというが、堂々とした話しぶり。
パグのガンディーが実にチャーミングだった。（笑）


　Q&Aにはクリス・クラウス監督とプロデューサーのカトリン・レンメが登壇。（主演女優は連れてこなかったのか…、残念。）


「ドイツでの反応はいかがですか？」という問いには「東京国際映画祭がワールド・プレミアで、まだ本国では上映してないが、好評になって欲しい」と語ってた。



今年からメインスクリーン扱いになったのがヒルズの近くのEXシアター。
http://www.tv-asahi.co.jp/ex-theater/



仮説の椅子で、最大900シートを確保。
（ただね、硬いよねイスが…朝日ホールほどではないとしても長時間はきついなぁ）


『誕生のゆくえ』＠第29回東京国際映画祭
http://2016.tiff-jp.net/ja/lineup/works.php?id=5

　イラン映画といえば社会風刺の名作も数多い。
本作も御多分に漏れず、堕胎の是非を問うグローバルな社会派ドラマ。

　ドキュメンタリー映画監督の夫ファルハードは舞台俳優の妻パリと一人息子と仲睦まじく暮らすが、仕事が順調とはいえず資金繰りに困窮する日々。
それなので第二子の妊娠が分かっても堕胎しか考えられない。
おりしも妻には大きな仕事が舞い込むというチャンスもあり、人目を避けて産婦人科に堕胎に向かうが…。

　イスラム教徒である二人は本来なら堕胎は禁止されている。
しかし、現実には隠れて行われることも珍しくないようだ。
本音と建前が隠されているのは、夫婦の葛藤に表れる。
子供が嫌いなわけではない。むしろ子育ての重要性は国の未来とつながる大事なことと分かっているからこそ、満足いかない状況と分かっていて受け入れることができないのだろう。
正解がない答えに夫婦がどう決着をつけるのか、自分ならどうするのかを問いかけながら見てしまう。

　夫の作風が痛烈にブーメランとなって帰ってくるところが余韻を残す。

　長めのカットを多用するのもドキュメンタリー監督という設定や舞台俳優という役柄とつながるようでもある。
突然、韓国俳優の名前が出てくるあたりもグローバル化の現実を表していると感じた。
そういえば一人息子はネットに夢中なのも、いまやこの問題はローカルな話ではない証拠だろう。



　Q&Aにはモーセン・アブドルワハブ監督、主演女優エルハム・コルダ、エグゼクティブ・プロデューサーのアリ・アスガル・ヤグゥビが登壇。







　ポーランドから来ているという美人女性が似たような事例が母国でも起きていて、保守色強い政権は堕胎を禁止する法令を通そうとしたんだとか。
しかしなんだね、イラン映画をポーランドの方が日本で（英語と日本語字幕付き）観ている光景なんて国際映画祭って感じだね。
終了後、近くで観ていたベラルーシ出身（そう話していたように聞こえた）の美人女性がその人に寄ってきて仲良くなっていたようだった。これも日本人には中々真似できないな。
ポーランドの方は日本で英語教師をしているんだって。（と、英語で会話しているのが聞き取れた）
…ああ、仲良くなりたいなぁ。（ボソッ）