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2016年08月28日23:58

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新・音盤雑談帖(その46)―ベートーヴェン交響曲全集 フルトヴェングラー/ウィーン・フィル、バイロイト祝祭管弦楽団、他(その4)

さて、新しいマスタリングによるフルトヴェングラーのベートーヴェン交響曲全集の、第三交響曲『英雄』。ウィーン・フィルとのこの曲の演奏では、泣く子も黙る(月並み)斯の超有名な所謂『ウラニアのエロイカ』があるので、こちらのスタジオ録音は―不出来、と云う訳では無論ありませんが―旗色が若干悪いのでは。

少なくともわたくしは、最初に聴いたフルトヴェングラーの『英雄』交響曲が、『ウラニアのエロイカ』だったので、刷り込みが強烈でありまして。どうもこのスタジオ録音の戦後の『英雄』は、劇的な表現では一歩を譲るのは否めない所。故福永陽一郎氏が評した様に、『ウラニアのエロイカ』は「もっともフルトヴェングラーらしい、構えの大きい、激しい感情の起伏に満ちた、興奮と絶望の両極に橋を渡す超名演。しかも、これだけ大きく動く演奏にも関らず、乱れというものがいっさい無い。見事に達成された完全演奏」と言えるであろう、と。

尤もスタジオ録音だけあって、細部迄細かく神経が行きとどいて居り、造形的な点では全く傷の無い、古典的でありながら十分にロマン的な香りの漂う演奏、という点では矢張り右に出る演奏はないのではなか、とも思いますね。殊に今回のマスタリングでは、音の明瞭度が増して、粒立ちが良くなった結果、モノラル録音としては十分に満足の行く仕上がりとなっているのではないか、と思います。無論、ティンパニが弱かったりする点は、どうにもならないのですが、第二楽章ではウィーン・フィルの音色を十分堪能出来る様になったと言っても過言ではないかと思う次第。

只、現在聴ける様になった、このウィーン・フィルとのスタジオ録音と時代の近い、ベルリン・フィルとの実況録音を聴くと、わたくしの独断と偏見では、相通じる要素は『ウラニアのエロイカ』よりも、こちらの方が多い様に思います(無論、ベルリン・フィルの方が剛直で、ずしりとした響きなので、わたくしはこちらの方にもまた、大いに気を惹かれるものがあります)。

天下の名盤に今更素人が戯言を並べても、余り有益とは申せませんが(それは百も承知之介)、モノラルの古い録音でも(録音されてからもうじき70年になろうか、と云う大昔の録音ですから)、新しい技術を使って丁寧にリマスタリングを行うと、これだけ違って聴こえるものか、と大いに感心しました。大いに満足を覚えた次第。
しかし、これがあるから「リマスタリング」なんて謳い文句があると、ついフラフラと購入したり、或いはダブり買いとなっても何のそので、購入するか否か大いに煩悶・逡巡させられるのは毎度の事。それでもフルトヴェングラーの旧EMIへのベートーヴェン交響曲全集は、第九を除くと以前言及した、昔の“Reference”盤の音質が、わたくしとしては十分満足の行くものだったので、同じ演奏のCDが何枚も転がっている、と云うお馬鹿な体たらくは少ない方でありますが……

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