《2016気仙沼2》語り継がれる津波

（気仙沼　承前）

早起きした朝は温泉に浸かり今日の予定を脳内整理。
温泉のプロフィールには「酵塩度の源泉なので身体が浮くよ」と書いてあった。
貸切だったので全裸大股開きで湯船に浸かり、ヘリに手を掛け身体を浮かしてみる。

沈んだし。


今日は一本松から視察を始めよう。

クルマを走らせて３分、男山本店。
７５年前に建造された木造コンクリト３階建ての営業店舖は、平成１５年に国の有形文化財に指定され、平成２３年津波に沈む。
リアスアーク美術館に展示されていた男山本店のスケッチが示すとおり、３階建て＋屋上の勇姿は、３・１１、まるでだるま落としのように１−２階がさらわれて、大きな空き地にぽつねんと昭和の残像を晒している。

気仙沼は宮城県最東部。
クルマを10分も走らせると岩手県に入る。
そして、東日本大震災のシンボルのひとつを目の当たりにした。

《奇跡の一本松》
解説を読むと、陸前高田７，０００本の青松は、この１本を残しすべて波高４０ｍの津波に積み込まれていった。
被災者へ勇気を与えていたこの一本松も、塩水に汚されて枯れ死となった。
被災者からの要請と、全国からの義援金は、一本松のDNAを残した移植に成功し、３年前にモニュメントとして生まれ変わる。
レプリカと知りながらも、この光景に自然と涙が溢れ、置かれていたベンチに佇んだ
朝９時前の広場には人ひとりいない。
流した涙を拭くこともなく、しばらくは犠牲者への追悼に自分の時間を費やした。

周りを見渡すと「復興」なんてまだまだ未来の話。

《希望の吊り橋》と名付けられた天空のベルトコンベヤーは、左手の山から土を切り出して、右手のピラミッドを作っているかのようなかさ上げの土台へと運ばれる。
切り開かれた山には高台住宅を新築し、今なお仮設住宅に住まう被災者たちがその完成を待つ。すでに５年。

岩手県陸前高田。
近況、巷間に名が通いはじめた田中角栄が存命なら、かの人間ブルドーザーはこの被災地にどのような決断を下しただろうか。きっと《３年》で集中特化し、国民の生活を第一に考えたリーダーシップを果たしていたであろう。それにしても、小沢一郎なんて・・・

奇跡の一本松に後ろ髪を曳かれながら、個人的な勉強会が続く。

宮城県へ戻って、気仙沼の景勝地・唐桑半島へクルマを走らせた
御崎神社の裏手にある唐桑半島ビジターセンター。
ここには日本唯一、津波体験館がある。

平日の午前１０時、誰もいるわけがない。
受付で体験チケット３８０円を買うと、おねえさん自らが室内へ案内してくれて、MCも担当する。
MCというよりも、おいらに対するインタビュー。
「どこから来たの」「なにしに来たの」「どこを見たの」
神奈川から来たこと、月初めに熊本へ行ってきたこと、奇跡の一本松に無常を思ったこと。
おねえさんは、本音で語ってくれた。
この土地の生き方、津波の前と後のこと、亡くした友人のこと。
そしてオリンピックのこと。
陸前高田の復興はまだまだ緒についたばかりの有り様。
なぜ、東京オリンピックなのかと。

津波体験館は２５年前からこの地にあった。
明治２９年、昭和８年、そして昭和３５年のチリ大地震。
三陸にはほぼ４０年置きに大津波がやってきている。
未曾有の津波ではないそうだ。
津波が起きたら高台に、全てを捨てても逃げること。津波てんでんご。

１１分の映像は、東日本大震災後に新たに撮影されたもの。
劇中、震度３の地震と、風速１０ｍの強風を体験できる。
シネコンでいう《４D上映》になっている。
貴重な映像と起震体験をひとり貸切で味わった。
このあと、資料館を見て回るのだが、おねえさんがピタリとついて離れない。
資料ひとつひとつに、わざわざ解説を加えてくれている。

誰かに伝えたくて伝えたくて仕方ないのだろう。
しっかりと受け取った。
実は、この経験を午後にも得ることになるのだが、それはまた別の日記。


被災のシンボルを２つ。
地区は違うが、廃墟となった気仙中学（岩手県）と向洋高校（宮城県）の校舎。
双方とも教員・生徒に犠牲者なし。全員が避難できた。
海に近すぎた学校だったゆえ、普段からの避難教育がしっかりとなされていたそうである。
犠牲者を多く出してしまった自動車学校や小学校は、残念で仕方がない。

語る継がれていく津波。
至るところにある「津波最高到達点」はあくまでも２０１１年版であることも伝えていかなければならないそうだ。
入り組んだ湾に襲いかかる津波は、次回、どのような勢いをもってやってくるのかも想像つかないのだから。



■イタリア中部の地震、死者２４７人に　負傷者４００人
(朝日新聞デジタル - 08月25日 10:43)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=4159592