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2016年08月17日00:35

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自然科学之雑談帖(その22)―スズメバチ被害の傾向と対策

此処数年、秋口になると民放ニュースで取り上げられる機会が多くなるのが、スズメバチの巣退治の話題。わたくしも何回か見た事がありますが、想像を絶するほどの巨大な巣が拵えられている例もある様で。その傾向と対策(おお、懐かしのフレーズ)が記事になっていましたので、ご紹介。

<引用開始>

“勝ち組”スズメバチとの「ハチ合わせ」を防ぐために

この夏の酷暑もいよいよ後半戦。そろそろ、軒先のハチの巣が大きくなってくる時期だ。ハチ、特にスズメバチから真っ先に浮かぶイメージは「怖い」「危ない」だろう。確かにスズメバチは危険だ。しかし、なぜハチは人間を襲うのか。ハチにも事情があるはずだ。相手のことをよく知れば、危険を回避して仲良く暮らすことができる。スズメバチ研究の第一人者、玉川大学農学部・小野正人教授に寄稿してもらった。

●8〜10月に被害集中、死者数はクマより多い
厚生労働省の人口動態調査によれば、2014年の1年間で、日本ではスズメバチなどのハチ刺傷が原因で、14人が命を落としている。1年間といっても、日本ではハチに刺される被害が頻発するのは、巣が大きくなる8〜10月の3か月間に集中している。多かった1984年には73人もの犠牲者が出た。1か月あたり24人もの命が失われていた計算だ。80年代から現在に至るまで、いまだに平均で年間約20人が、ハチが原因で死亡している。この数字は日本の野生生物の中でクマやハブによる犠牲者数を凌駕りょうがしている。猛暑が予想される今年は、特に注意が必要だ。

スズメバチは幼虫やサナギが育つ巣内の温度を32度程度に保つ習性がある。暑さが厳しくなると働きバチは巣内の温度を下げるために巣から脱出し、人口密度ならぬ「蜂密度」を下げて巣の中の温度を下げようとする。さらに、巣の外で一生懸命に翅はねを動かし、巣の中へ風を送る。35度を超えるような猛暑日には、巣の表面に数十匹もの働きバチが出現することもある。このような状況になれば、巣の数や一つの巣あたりの働きバチの数が変わらなくても、人とスズメバチとの接触リスクは、極端に高まると言える。

●進化した「都市型」スズメバチ
もともとは野山で生活していたスズメバチが都市部で増加傾向にある。なぜか? それは、スズメバチの一部が、環境の変化に対して驚くべき適応力を見せているからだ。日本在来種の大型のスズメバチは、オオスズメバチなど7種が国内に生息している。その中で適応力の点で特筆すべきは、キイロスズメバチだ。キイロスズメバチは、スズメバチの中で体のサイズが最も小型で弱い種であるが、巣は時に直径80センチを超え、2000匹もの働きバチを擁する最大級のものとなる。自然生態系では木の枝などに営巣し、昆虫類を捕食したり、樹液や果汁などを吸ったりして生活している。

ところが、1980年代に入り日本経済がバブルの時代に向かい始めた頃から、里山が宅地造成され、家が立ち並ぶようになる。その過程で多くの野生の動植物は姿を消していったが、環境の急変に見事に適応して勢力を増大させた、いわゆる「勝ち組」の代表格がキイロスズメバチなのである。

●日本の住宅はスズメバチの「天国」
キイロスズメバチにとって、日本家屋の軒下、屋根裏、床下、雨戸の戸袋は格好の営巣場所であり、家庭から出る生ごみやジュースの残り物は豊かな栄養源となっているのである。さらに、天敵であるオオスズメバチが都市部に適応できていないため、パラダイスのような生活空間を人がキイロスズメバチに提供する格好になっているのは皮肉である。キイロスズメバチは営巣環境が整えば、晩秋には1つの巣から1000匹に迫る数の新女王バチを産する高い生殖能力をもっており、その増加速度は驚異的である。

「勝者は最も強い者でも賢い者でもなく、環境の変化に適応して自らを変えていける者である」という事をひしひしと感じさせるのが、キイロスズメバチなのである。

●スズメバチが人間を襲うのは、遺伝子の戦略だ
スズメバチに共通の特徴は、メスに「女王バチ」と「働きバチ」の階級がある点だ。女王バチは生殖を担当するメス。働きバチは女王バチの娘にあたり、巣作りや育児、外敵からの防御などを担当する。働きバチは自らの生殖を放棄している。その代わり、血縁者である母親の生んだ子(妹や弟)を保護・育成することを通じて、自分が属する集団の遺伝子を残すのが使命だ。だからこそ、迷うことなく自らの命を血縁者のために捧ささげる、文字通り「命を懸けて」人間を攻撃するのである。

 事実、スズメバチに刺されて命を落とされた方々は、この働きバチの捨て身の防御の犠牲者である。“スズメバチの怖さ”の根底には、このような遺伝子の戦略があると考えられ、進化生物学的な観点から働きバチの利他行動の合理性が説明できる。このような命知らずの働きバチが無数にいる巣に刺激を与えてしまい、彼らが守るべき血縁者に危害が及ぶと認識されたら、何が起こるかは自明の理である。

●指先を刺されただけで意識を失い、死に至る
スズメバチのリスクを語る上でもう一つ落とせないものがある。それは、蜂の毒による急性のアレルギー反応の一つ「アナフィラキシーショック」である。スズメバチの針から注入される毒液に含まれる成分は体内に注入されると激痛を引き起こしたり、血球細胞や組織を溶解したりする作用をもたらす一方、体内で抗体を作る引き金となる。この抗体は、毒液が再び体内に入ってきた際の、人間の免疫機能を発動させるアンテナの役割を果たしている。

つまり、複数回刺されて蜂の毒を感じやすい状態になってしまうと、さらに刺された時に急激なアレルギー反応が発症する。指先などの局所を刺されたにもかかわらず、全身に蕁麻疹じんましんが出たり、血圧の低下や呼吸困難などの全身症状が引き起こされたりする。刺されてから数十分程度で意識を失い、死に至る場合もある。一方、危険が強調されるばかりであまり知られていないが、スズメバチは草木の緑を食べてしまう害虫を貪欲に捕えて幼虫の餌とし、生態系のバランスを保つ「益虫」としての機能も担っている。

さらに、人間とハチの関係を考える上で重要なポイントは、ハチが貴重な食料だったという点だ。

●「一級品の食材」としてのハチ
スズメバチの幼虫やサナギは、良質なタンパク源である。今から数百年遡れば、我々の先祖は自給自足の生活を送っていた。彼らにとって、タンパク源としてのイノシシやシカなどの獣を捕えるのは至難の業であったに違いない。その点、昆虫類は女性や子供でも捕まえることができる手軽な栄養源で、今でも各所でイナゴやザザムシ(ヒゲナガカワトビケラの幼虫)を食する「昆虫食文化」の名残りがある。

その中でも「ハチの子」は、栄養豊富な一級の食材と言え、スズメバチの巣内の無数の幼虫やサナギは、ハンティングの対象であったと考えられる。日本をはじめ、大型のスズメバチが分布しているアジアでは、働きバチに目印を付けて追いかけ、巣を見つけては採集する風習がある。

●進化を物語る?黄色と黒の縞模様
スズメバチにしてみれば、人こそが怖い捕食者である。毒針を使った執拗しつような防衛戦略の進化は、人の捕食圧に対するものと言っても過言ではない。巣に刺激を受けてスクランブル発進をしてきた働きバチが、黒くて光る部分をめがけて攻撃してくるのは、アジア人の頭や目といった急所に毒針を突き立てることにも繋つながる点、急性のアレルギーが人の免疫機構を逆手にとった巧妙な策である点など、両者の因果関係を感じずにはいられない。

刺された経験のない人でさえ、スズメバチの黄色と黒色の縞模様を見ただけで本能的に「危険なサイン」と警戒してしまうのは、両者の関係が遺伝子のレベルにまで組み込まれているのではないかと、悠久の共進化の歴史を感じてしまう。

●スズメバチの巣を見つけたら
もしスズメバチの巣を見つけても、近づいて刺激を与えるようなことは厳禁である。8月も半ばを過ぎれば、キイロスズメバチの巣の中には300匹を超える働きバチがいる。巣に近づくと2、3メートルほどの距離があっても、「門番」のハチが警戒して、人間の周りをまとわりつくように飛んでくる。独特の羽音と執拗さに思わず手で追い払おうものなら、針先から毒液を噴射してくる。

空中に噴射された毒液の中には揮発性の高いアルコール、エステルなどの香気成分が含まれており、そのブレンドが「警報フェロモン」となっている。この“香りの非常ベル”が放出されると、無数の働きバチが巣穴から飛び出し、黒い部分や動く箇所に毒針を突き立ててくる。毎年、秋の行楽シーズンになると遠足や郊外のマラソン大会などで、一度に大勢の方が被害にあわれる事故が相次ぐのは、このような些細ささいなきっかけに端を発する連鎖的アクシデントであることが多い。

今の季節には素人では手のつけられないスズメバチの巣も、実は5月の大型連休の頃に越冬を終えた、たった1匹の女王バチによって巣作りが開始される。6月くらいまでの、巣がまだ小さいうちであれば、専用のハチ駆除用のスプレー式殺虫剤で巣を取り除くことができる。ただ、その頃の巣は見つけられず、たいてい刺される犠牲者が出てから通報によって巣の所在が明らかになるものである。

最近では、ハチの巣の駆除を請け負ってくれる業者も増えているし、高額な駆除費用を一部補助してくれる自治体もあると聞く。スズメバチの巣を発見したらむやみに手を出さずに相談してみることである。スズメバチの巣が怖くて洗濯物が干せない、しかし、その巣は自分の家ではなく向かい家の軒下といった場合には問題はやや複雑になる。その場合にも状況をしっかりと隣家に伝えて、安全安心な生活が送れるように協力することが肝要と言える。

不幸にして、巣のそばでハチを刺激してしまい、万一刺されてしまった場合には、まず一刻も早く遠くに逃げることである。次に、刺された患部を指でつまんで圧力を与えると針の穴から血液と一緒に毒液が出てくるので、冷たい流水で洗いながら体外へ毒を排出する。体に蕁麻疹が出る、呼吸が苦しい、めまいがするなど全身に症状が出た場合には、蜂毒アレルギー(アナフィラキシーショック)の可能性が高い。一刻も早い医師の診察と治療が必要となる。

以上、スズメバチの特徴と付き合い方を駆け足で紹介してきたが、要点さえつかんでおけばリスクを大幅に軽減できると思われる。この夏は、賢い対応で思わぬ“ハチ合わせ”を回避したいものである。

<引用終了>

出典Web:http://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20160812-OYT8T50046.html?page_no=1

実はわたくしの下の妹が高校生時代に、東北地方へ修学旅行に出掛けた際に同級生がクロスズメバチの襲撃を受ける、と云う事件に遭遇しまして。難を逃れた妹に後で話を聞きますと、女の子ですから大体が髪が長くて、髪の毛に何匹もの蜂が集ってチクチクと刺されたそうです。払おうとする指も(当然の事ながら)刺されて、確か何人かは(短期間ではありましたが)入院する騒ぎになった記憶が。

それにしてもニュースで報じられるスズメバチの巣の駆除の話題が、キイロスズメバチのそれであるのがちょっと不思議だったのですが、こうした理由があったのでありますねえ。
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