『
オマールの壁』
ノワール映画。
パレスチナ自治区における抗争とファミリーの内部をノワール風にみせたサスペンス映画。
イスラエル・パレスチナ問題が根底にはあるが、政治的な深みよりも娯楽的な要素が強いように思う。…なので、小難しそうという先入観を持たないのが肝要か。
まず、冒頭で『ゴッドファーザー』の物まねをするシーンがある。
これから始まる映画の性格を示唆するようだ。
とても乱暴な表現だとは思うが、イスラエルの秘密警察と占領されるパレスチナの関係は日本の第二次大戦下での憲兵・特高と市民の関係性に近い気がした。
壁で仕切られながらもパレスチナの人々は至って普通の生活をしている。
恋も友情も何ら変わらない。
ただ、一方的に「悪いことしているだろう」と取り締まられるのは不愉快極まりない。
パレスチナ人の一部がテロリストまがいの行動に出るのもこういった抑圧的な状況もあるのだろう。
長い歴史と曰くがあるので簡単に解決の糸口は見つけられないだろうが、興味深いのはナチスに迫害されゲットーなどに閉じ込められた経験を持つユダヤ人が自分たちの国家設立を目指した結果、パレスチナとの境界線に(実際はパレスチナ領土内にはみだして)壁を作って他民族を閉じ込め監視している皮肉な現状だ。
マフィアものには付き物のファミリーを守るための鉄則や戒め、色恋や裏切りなど欲望が渦巻く世界が描かれる。
特に
警察に追われるチェイスシーンの緊迫感は出色。
猿を捕える手法やイスラエル秘密警察官が差し出すお菓子のシーンなど小道具の演出が冴えている。
100%パレスチナ資本で製作された初のパレスチナ映画というのは先入観を持たせてしまうかもしれないが、たとえ一方からであっても彼らの姿を通して背景にある壁の問題を考えるいいきっかけになるのではないか。
歴史は繰り返し、過去から何も学ばないというのではあまりにも悲しい…。
壁を作り出したのが人の所業なら、壁を超えることも人は出来よう。
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