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2015年10月14日23:18

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新譜之雑談帖(その233)―バックハウス録音集

わたくしがクラシック音楽を聴き始めた頃(もう40年以上も昔の事になりますが)、評論家諸氏の権威たるや大変なものがありました。LPレコードの値段も、発売当初の(その頃の)大卒サラリーマンの初任給に匹敵する、と云う桁違いの高値の存在ではなかったものの、高校生・浪人生・大学生の自由になるお金からすると、そうほいほいレコードが買える訳でもなく。
高いお金を出して、全然好みに合わないレコードを掴まされては、大変なダメージが(少し大袈裟)。と云う訳で、自分の好みに合う評論家を見付けては、その評論家が褒める(或いは絶賛する)レコードに先ず手を出してみる(未聴の曲の場合は尚更)でありました。

わたくしの場合、最も波長が合ったのは某宇野功芳氏、次いで故福永陽一郎氏の論評でありました。但し、何時でもドンピシャか、と云うとそんな事はなくて。わたくしは福永氏絶賛のバーンスタインは、以前ほどではないものの、積極的に喜んで聴くと云う境地には程遠いものが。
某宇野氏が絶賛する演奏家では(以前にも書いた様な気もしますが)、バックハウスは全く波長が合わず、一体この演奏の何処が良いのだろう、と(特にスタジオ録音では)段々腹の立つ代物も。最たるものが名盤の誉れ高い(と云う事になっているらしい)ブラームスの第二ピアノ協奏曲。わたくし、バックハウスのおかげでこの曲が大嫌いになりまして、かなり後になったギレリス&ヨッフムの演奏を聴く様になって、漸くアレルギーが大分緩和された次第。

近年発売される実況録音盤では、ベートーヴェンの第五ピアノ協奏曲(クナッパーツブッシュと組んだ録音、並びにシューリヒトと組んだ録音の2種)は聴いていて大いに感心しましたが、どうもデッカに録音したベートーヴェンのピアノ・ソナタは、この演奏の一体何処が良いのか、皆目見当が付かない有様。強いて言えば、モノラルでの録音の方には、がっしりした構成力に成程、と思わせるものがあるのですが、ステレオ録音の方は、何だかそれが形骸化して仕舞っているようにしか聴こえないのでありまして。

そんな中、某ユニバーサル・ジャパンからまたまたバックハウスの録音が再発されるとの告知が。ううむ、世のベートーヴェンのピアノ・ソナタ愛好家にとっては、バックハウスの演奏は錦の御旗なのでしょうか。只、本家英国(若しくは欧州、少し範囲を広げて豪州エロクエンスあたり)のデッカからは、あれだけ膨大な録音を残していながら、ステレオの方のベートーヴェンソナタ全集と、何時ぞや言及した協奏曲の録音集くらいしか出していない様で。DGのケンプの録音に対する処遇と好一対の様な気がします(DGはケンプのスタジオ録音を、かなりの数現役盤として今でも出している様なので。)

或いはモノラル時代のベートーヴェンのピアノ協奏曲全集(皇帝くらいしかちゃんと聴いた記憶はありませんが、ピアノ演奏の闊達さぶりはモノラル盤の方が良かった様な)やピアノ・ソナタ全集が、デッカのマスター・テープから再発されると、わたくしのバックハウスに対する認識も多少は変化するかも知れません。

張り付けた画像は、今回の再発にも含まれる最後の演奏会の実況録音。確かデッカの録音が昔のポリドールから出る様になった際に、再発されたこの音盤を狂喜して購入したものでありましたが、ピアノ曲としては御贔屓筋の曲目がずらりと並んでいるにも関わらず、演奏には余り感心出来ず、がっかりした記憶が。僅かにシューベルトの『楽興の時』の演奏に、幾らか感心した程度。
日本で発売されるデッカの録音は、これがまたどうした事か何処から発売されたものでも(バックハウスに限らず)わたくしの気に入らない音作りなので、今回再発される録音の一部でも、本家本元のテープで聴いてみると、また印象ががらりと変わるかも知れませんが……
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