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2015年09月09日21:16

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巴(3)-伝承とともに

「巴、これまでよくぞ助けてくれた。もうこれまでだ。おれは自害しようと思う。お前は、どこへなりと落ちていけ」
「いえ、わたしの務めは殿を守りとおすこと、死ぬならば一緒と覚悟しています」
「だめだ、最後の戦に女を連れていたと言われたら武士としてそんな恥ずかしいことはない。今すぐここを去るのだ」
義仲に強く言われて、巴はしかたなく離れ。敵軍の中に割って入っていった。
長刀を振りかざして敵をなぎ倒し、けちらして敵陣を抜けると、鎧を脱ぎ捨て、東の方へ走り去っていった。

『巴御前』(郷土出版社・2009年)より

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「巴御前」に関連する本には、どのようなものがあるだろうか。
そう思って、比較的大きな図書館で検索してみたが、1冊しかヒットしなかった。
それも、一般図書ではなく、児童書室の蔵書だった。
長野県松本市にある出版社から出ている「ふるさとの歴史人物絵本シリーズ」というものの1冊が、冒頭に引用した『巴御前』だった。

前にも記したとおり、巴御前に関する歴史的記録は、とても少ない。それだけで研究書が書けるようなものではないようだ。だから、彼女の姿は、平家物語や木曽義仲に関する本の中で、短いエピソードとして語られるに過ぎない。

「弓矢・打物取つては如何なる鬼にも神にもあふと云ふ一人当千の兵なり」という平家物語の中でも最大級の表現と、表現される分量の「少なさ」は、とてもアンバランスだ。そのアンバランスを埋めるものが、さまざまな「伝承」である。それらのどれだけが史実に即しているのか分からない。巴御前の「墓」と呼ばれるものもあるそうだが、その実態は、よく分からない。
(冒頭に引用した部分は、平家物語の中にも描かれている場面ではあるが。)

この『巴御前』という本は、そうした伝承を寄せ集め、その上に著者による脚色を加えることによって成り立っている。
この『巴御前』では、巴が若いときから義仲に恋心を抱いており、身分からしてその正室にはなれないことを知って嘆く場面まである。もちろん、そうしたことが本当にあったかどうかなど、分からない。

「巴御前」という存在は、日本人の想像力(イマジネーション)が産み出したものなのかも知れない。
そう思うと、その姿には、史実とは別として、日本人の民衆が抱いている「何か」が反映されているのかも知れない。

巴御前は、歌舞伎の中でも取り上げられているらしい。

■郷土出版社
http://www.mcci.or.jp/www/kyodo/
■巴御前 (ふるさとの歴史人物絵本シリーズ 4)
http://www.junkudo.co.jp/mj/products/detail.php?isbn=9784863750173

■歌舞伎「巴御前」
http://azu.pearl-web.com/play/kabuki/tomoe.html

■軍記物(平家物語を含む)に関する日記の目次
http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=2312860&id=1943377906
■日本古典文学に関する日記の目次
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