『
あの日のように抱きしめて』
一点だけ腑に落ちなかったのは
「これ、成立するのだろうか?」だった。
作中での仕掛けに納得できれば、戦慄するほど面白い作品に思えるが、正直どこか引っかかる。
『東ベルリンから来た女』のクリスティアン・ペッツォルト監督と主演のニーナ・ホスが再び組んだ作品で、強制収容所から奇跡的に生還できた女性ネリー(ニーナ・ホス)が、最愛の夫ジョニー(ロナルト・ツェアフェルト)の元へ戻ろうとする過程を描く。
彼女が逮捕された裏の事情が少しづつ見えてくるに連れて、シビアな現実を感じる。
銃撃などで容貌が見る影を失くして、整形で別人のようになってしまう不幸を背負うネリー。
死んだと思っていた夫ジョニーは<似ているけど別人>であるネリーを遺産相続に利用しようとする。
英題はPhoenix、これはネリーが出入りするアメリカ兵相手のクラブの名前でもあり、また一度死んだ身から舞い戻った彼女自身に他ならない。
深い愛情とも、その裏返しとも取れる最後のシーンの突き放し方にはゾゾッとなるが、前提の<似ているけど別人>と認識できるのだろうかという疑問がどうしてもぬぐえない。
顔が変わるという設定は映画やマンガではよく描かれるが、顔こそ違え、それ以外は変わってない(加齢による多少の変化はあっても…)と思われるので、もっと疑ってもよさそうなのだが…。
別人と思っているのに<自分のことを知っているみたい>という点でも。
そこは互いの愛情の差という解釈でいいのだろうか。
ヒロイン・ネリーを演じたニーナ・ホスは熱演だが、ジョニーにそこまでして惚れ込んだ何かを感じることができない…。その深みがジョニーにあれば違ったのか?
どちらも
亡霊を見ていたのだろうか。
戦後の荒廃したベルリンの様子はよく出ていたと思う。
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