「此卷古來名のみありて本文なし。蓋し此卷に源氏逝去の事を書くべきなれど、前卷既に紫の逝去につきて哀をつくしたれば、作者故［ことさ］らに、更に一層の傷心事を寫すことを避けて、只卷の名によりて源氏の逝去を知らせたるならんといふ。さて前の幻の卷と次の匂宮とは其の�遼泙夙�箇年を隔てたりと知るべし−−校訂者」
武笠三『友朋堂文庫 源氏物語三卷』（有朋堂書店・昭和三年）より
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有朋堂文庫は、明治の終わり頃から昭和のはじめにかけて発刊された叢書で、和漢の古典１００冊以上を収めていた。
円地文子などは、この版によって源氏物語に親しんだらしい。現代の原文研究の水準からすると、不充分な点もあり、あるいは注釈の行き届かないところもあるかも知れないが、この叢書が古典普及に果たした役割は大きいと思う。
現在でも、古本が５００円ほどで出ていることがあり、ハンディな原典としては便利なものだ。
そのうちの、源氏物語の「雲隠」の巻を見たら、上のように書かれていた。
「雲隠」という本文の無い巻を挿入することが、はたして紫式部（作者）自身の意図したことなのかどうかは、今も決着していない謎なのであるが、ここでは一応、作者の意図に沿ったものだと解されている。
「前卷既に紫の逝去につきて哀をつくしたれば」
すなわち「御法（みのり）」の巻で、紫の上という卓越した素晴らしい人物の悲しい逝去について、既に美しく描ききっている。源氏の死について描くとしたら、その違いは男女の違いという程度のことになる。とすれば、
「作者故らに、更に一層の傷心事を寫すことを避けて、只卷の名によりて源氏の逝去を知らせたるならん」
というのも人情ではあるだろう。
しかし、この説に「といふ」と付して記していることは、校訂者の武笠にも確証は無く、旧来の説をひいたということだろう。少し人情に流れた考え方だとは思うが、これはこれで悪くないとも思う。
■有朋堂文庫『平安朝日記集 全』（2014年10月06日の日記）
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1933313728&owner_id=2312860
■有朋堂文庫
http://www.ozorasha.co.jp/pa-yuuhoudou.pdf
■武笠三
http://www.city.saitama.jp/midori/001/002/005/005/p009008_d/fil/midori9-2.pdf
■唱歌「案山子」発祥の地
http://hamadayori.com/hass-col/music/Kakasi.htm 
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