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2015年06月13日23:58

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新・音盤雑談帖・購入盤雑談帖(その27)カール・ベームDG後期録音集(23CD)

さて先日、DGよりカール・ベームが晩年に残した録音集成(理由は良く解りませんが、当時のウィーン・フィルのメンバーをソリストにした、モーツァルトの協奏曲の録音は含まれていませんが)が発売になりました。わたくしのこの録音集成に対する思いは、以前にも記したので再度申し上げませんが、幸いな事に資金繰りがついて、無事に(本当は相当数ダブり盤が増えて、余り無事でもないのですが)購入するに至りました。万歳。

で、収録順に聴きはじめていまして、最初の3枚はベートーヴェンの録音(第九、序曲集、荘厳ミサ曲)。何れも懐かしいベーム/ウィーン・フィルの音色が横溢しているのでありますが(当然のお話、ではありますが)、ちょっと驚いたのが1980年の第九の演奏。

これはベームの残した二点のディジタル録音―ウィーン・フィルとの組み合わせでは唯一の―という事で、ベームが没した後に「最後の録音」として発売されて、話題になったもの。尤もわたくしが入手したのはずっと後年、2枚組のCDの輸入盤が発売されてからの事。初発売をされたから、ざっと20年は経過していたのではなかったかと思います。

で、大いなる期待(大袈裟)を持って聴いたのですが、これが失望の一文字あるのみでありまして。所々美しい所はあるものの、全体としてテンポが遅く(設定された遅さ、ではなく、老齢から来る鈍さ、と云う様に聴こえました)、緊張感もなくでれでれと音楽が進み、最後に唐突にテンポが速くなってバタバタと終わる、と云う印象。これはベームに残して欲しくなかった録音だったなあ、とがっかりしたものでありました。

が。

今回1枚目に収録されているこの録音を聴いてみて愕然。嘗てのわたくしの耳は節穴であったのか。これより以前のベーム/ウィーン・フィルの第九の録音は、実はわたくしがステレオで買い求めた最初の第九。その演奏と比較して、確かに演奏時間は更に延びて、前者が72分程に比べてこちらは実に79分。この因って来たる所について、これは老齢から来る、肉体的衰えであるものと以前は単純に考えていたのでありますが。改めて聴いてみて、オーケストラの細部迄実に明確に聴き取れる事に驚きました。普通の録音であれば、埋もれて聴き取りにくい各楽器の旋律も、耳を澄ませばちゃんと明確に鳴っているのでありますね。
わたくしの嫌いな、所謂オーセンティックを売り物をする演奏では、オーケストラの人数を刈り込む事で、パートの旋律がクリアに聴こえてくる事を売り物にしている場合が多い様ですが(無論それだけではないでしょうが)、ベームは伝統的な大オーケストラを前にして、殆ど同じレベルの明確さを引き出しているのでありました。

無論、通常のテンポでは中々聴き取る事が難しい部分があるのですが、このテンポですと(恰も某チェリビダッケのブルックナー演奏の如く)、細部が所謂モダンの大オーケストラの演奏であっても、明確に聴き取れるのでありますね。成程、ベームが目論んだのは(アナログ録音に比べて、細部が明瞭に聴き取れるディジタル録音の特性も生かして)こういう事だったのか、と耳から大きな耳垢がころりと取れた様な思い。

この録音から10年を経ずして録音された、某ア○ドの第九にも起用されたウィーンの国立歌劇場合唱団が(あちらでは何だか独逸語の歌唱が、ウィーン訛りとも違うであろう、べらんめえ調に聴こえて―恐らく細部に至る迄、発声を細かく指示しなかった事による―非常に気になったものですが)しっかりとした独逸語の歌唱らしい、重厚さを湛えたものになっていた所は、多分に歌劇上演に長けていた、ベームの力量の表れであろうか、と。

わたくしの蔵していたCDは二枚組でしたが、今回の録音集成では一枚に収められていたので、新しくマスタリングも行われたものと思います。それにしても、随分印象が異なる事に驚いた次第。数回聴いただけで、簡単に判断を下してはいけないと改めて思い知らされた一枚、でありました。
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