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2015年03月15日18:39

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和泉式部集全釈−続集篇−

「私は日頃から杞人の憂は全く正当なので、あれを笑った世人の方がをかしいと言ってゐるくらゐだから、迫り来る大地震を大分気にしてゐる。従って命ある中にといふわけで、本書に一応収めておく事とした。日本の地震学会が一日も早く地震予知に成功する事、並びに政府がこれを援助する事を祈ってやまない。」

小松登美ほか『和泉式部集全釈−続集篇−』(笠間書院・1977年)所収「東宝版『和泉式部全釈』補遺・附記」より

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先週(3月7日)、神田神保町の古書会館で開催された古書展に行ったら、『和泉式部集全釈−続集篇−』(笠間書院・1977年)が1500円で出ていた。この本の刊行当時の定価は9500円。2012年に「新装版」として刊行されたときの定価は11000円(税抜)であるから、これは破格の買い得品だと思った。(書き込みや汚れも少なかった。)

この「続集篇」には、55ページほどの「東宝版『和泉式部全釈』補遺」というものと13ページの「附記」がある。
この文学研究書の「附記」に上記のような地震のことが書かれているとは思わなかった。

「続集篇」の前には、当然、先立つ「正集篇」というものがあった。その正集篇にあたる『和泉式部集全釈』は1959年に東宝書房から出されていた。しかし、続集篇を出す前に「書房がなくなってしまって」、およそ20年経って笠間書院から「続集篇」が刊行された。それが、僕の買った本だ。
しかし、1977年の時点では、「正集篇」の復刻または再刊の目処が無かったようだ。小松にしてみれば東宝版の補訂を企図していたようだが、その実現の目処が無いので、補遺を「続集篇」に加えることとしたとのことだ。

東宝版『和泉式部集全釈』と笠間書院から出された「続集篇」は、佐伯梅友・村上治・小松登美の共編となっている。しかし、大正6年(1917年)生まれの村上は、早く昭和43年(1968年)に亡くなられている。明治32年(1899年)生まれの佐伯も、1977年の時点では存命だったものの、平成6年(1994年)には亡くなっている。

東宝版『和泉式部集全釈』を「全面加筆改稿」した『和泉式部集全釈 正集篇』を2012年に笠間書院が発刊したときには、小松のみが存命であった。このときには、小松は90歳。

小松が、1977年の時点で、自身の病没や自然死ではなく、地震による災害死ないし出版困難を恐れていたということには、少し驚いた。彼は、それを「杞憂」ではないと確信していたようだ。震災を懸念することを杞憂だと言う人がいるとしたら、その人の方が「をかしい」のだと。

「正集篇」の出版の前年、2011年3月の震災を見て、小松氏はどのようなことを思っただろうか。


■『和泉式部集全釈 正集篇』(笠間注釈叢刊・2012年)
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784305705952
http://www.amazon.co.jp/dp/4305705958
http://kasamashoin.jp/2012/06/6pdf.html
■『和泉式部集全釈 続集篇』(笠間注釈叢刊・1977年)
http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-305-30005-8.html
http://www.amazon.co.jp/dp/4305300052
■『和泉式部集全釈 続集篇(新装版)』
http://books.rakuten.co.jp/rb/11786669/

■和泉式部集の校注を終えて(清水)
file:///C:/Users/okazaki/Downloads/[zoku]kawa-86.pdf

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