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2014年07月29日22:27

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コンラッドの特色

「ある船の話」「ガスパール・ルイス」に続いて、コンラッドの「密告者」(ちくま文庫『コンラッド短篇集』所収)を読み終わった。

コンラッドには、海洋小説というジャンルのほかに、政治小説とでも呼ぶべき分野があるが、登場人物の大半が無政府所義者である「密告者」は後者に属する。
このふたつの分野は、ある意味では人間社会において両極にあるものかも知れない。
「海」において、人間は「ノーマルな社会」から隔絶されている。そして、「船」ないし「植民地」という「特殊な社会」の中で、ユニークな人間関係を築いている。
「政治」的社会は、「ノーマルな社会」の中に埋め込まれている。しかし、そこは「ノーマルな社会」とは異なる原理に支配され、人々が動いている。
いずれも、「ノーマルな社会」から見れば、「異常」な世界である。その異常な世界の中で起きる異常な出来事を描くことが、コンラッドの真骨頂なのだろう。

もっとも、コンラッドが描く「異常」は、必ずしも「怪奇」的ではない。異常な世界の中で起きた異常な人間行動を描いているが、その中には、何か「正常」なはずの「我々」に通じるものがある。つまり、コンラッドは、正常な世界の中では「いまだ、あらわになっていないだけに過ぎない」異常を描いているのだ。それは、つね日頃は「正常」によって抑圧され、閉じ込められてはいる。かと言って、その「異常」は存在しないわけではなく、ただ露呈していないだけなのだ。その「異常」は、我々の「心の中の闇」のようなものだ。「海」や「政治」といった舞台は、その「闇」を露わにするために格好な場所なのだろう。

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このような創作が可能なのは、コンラッドの生い立ちが特殊なものであることによるところも大きいだろう。
コンラッドの「生い立ち」について書き始めると長くなるので、以下に箇条書きにまとめてみる。

・ポーランド人として生まれる。
・父親は、貴族であったが、ロシア占領下のポーランドで独立運動に参加し、政治犯としてシベリアで強制労働をさせられる。
・コンラッドの母親は、流刑先で病死する。追うように父親も死亡し、コンラッドは幼くして父母を失う。
・叔父の元で育つが、16歳で家を出てフランス商船の船員となる。
・乗船した船は、武器密輸や国家間の政治的陰謀にも関っていたと言われている。
・船員時代に、自殺未遂をしている。
・やがてイギリス船に乗り換え、世界各地を航海する。
・イギリスに帰化。
・小説家になる。

こうして見ると、コンラッドの作品の「異常」さの一端が、彼の「生い立ち」の異常さに由来すると考えることは、決して間違いではないように思われる。しかし、これは少し安直なモノの見方かも知れない。それぞれの要素と、コンラッドが持つに至った認識、そして彼の作品の間にある関係は、もう少し慎重に検討すべき問題かも知れない。

そのためには、彼に関する伝記的な事実を、もう少し詳しく見てみる必要があるだろう。
これは、今後の課題だ。

■西成彦「コンラッドと英語、コンラッドとポーランド語」
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/k-rsc/lcs/kiyou/14-4/RitsIILCS_14.4pp.73-80NISHI.pdf
■千夜千冊:ジョーゼフ・コンラッド「闇の奥」
http://1000ya.isis.ne.jp/1070.html

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