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2013年08月05日21:48

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『さよなら渓谷』

さよなら渓谷

 「私たちは幸せになるために一緒にいるんじゃない」
世の多くのカップルは幸福になるために一緒に暮らしている…と思うが、このケースはそうでもないようだ。
『悪人』の原作者・吉田修一らしい構造と着眼点で未読なれど共通する匂いを感じる。

 冒頭から濃厚な濡れ場が登場する。
この話の主人公・尾崎俊介と妻のかなこだ。だが、次第にこの二人には特別なワケがあると分かる。それは常に妻がリードする事からも推察はつく。
そこからは“ケダモノ”二人のドロドロしたものに引きずり込まれながら、ミステリアスな展開を楽しむ。

 幸せを否定しながら、どこかでは肯定している。そんな二律背反的命題を内包した中々面白い着想で、ともすれば谷崎的な世界に行きがちなところを理性で持ちこたえているように思う。
歪な二人の関係を裏から穿り返すのは大森南朋演じる週刊誌記者・渡辺一彦。
この渡辺夫婦の関係が微妙に影を落として、奥行きを見せる。
この二組のカップルが問題を抱えながらも愛の不可思議な側面を見せるところが面白い。

 くたびれた元スポーツマンを演じる大森南朋も適切なキャスティングに思うが、なんといってもヒロインを演じる真木よう子の圧倒的な存在感にしてやられる
彼女なくしてこの映画は成立し得ないほどの説得力だ。
オマケにエンディングでは椎名林檎のペンによる曲まで歌い上げるという念の入り様で、決して上手いとは思わないがプロの歌手には出せない味わいがある。

 悪事から始まる物語だが、理屈で計り知れない人間の善の部分を垣間見せている辺りに作者のぬくもりを感じる。
人間とは、面白おかしい生き物で、理不尽であり、またそれゆえ愛おしくなるものかも。

ラストの続きを問うのは愚問だろう。

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