かれこれ十年ぐらい前、丸ノ内ビルディングが新しくなった。それを皮切りに、周辺のビルがどんどん生まれ変わっている。今、その中心は丸ノ内から大手町にかけての地区である。古いビルを一旦取り壊し、鉄筋を組み上げて高層ビルに生まれ変わるのだ。
新しい高層ビルは、たいてい、低層階はレストランなどの商業施設で、高層階はホテルやどこかの法人が入る。そういうビルが、この地区に毎年のようにオープンしていく。
築六十年ぐらいの古いビルが多いから、老朽化という観点からも建て直しは道理である。
ただ個人的に、商業スペースが増えることにはちょっと抵抗を感じている。
ぼくの知る限り、この辺りは「最後の大人の街」である。それが崩れかけているからだ。かつては道行く人のほとんどがスーツ姿で、小さい子供の手を引いて歩いているお母さんなど滅多に見られるものではなかった。ペットを散歩している人も、制服を着た女子高生もいなかった。ぼくはそういう凛とした雰囲気が好きだった。それが最近ではチャライ二十代の男が違和感なく溶け込み、腕を組んで楽しそうに歩いているカップルが目立たなくなった。
ちなみにぼくがこの辺りを「最後の大人の街」と感じているのは、銀座はすでにそうではなくなってしまったからだ。新宿や渋谷や池袋ほどお子様ではないかもしれないけど、ぼくが好きだった大人の雰囲気は消滅してしまった。
ビルはこれからもどんどんできる。二枚の写真は会社のすぐそばで、同じ場所から向きを変えて撮った。
左の写真。
正面の工事中のビルは二年後に完成するらしいし、左にちょっとだけ写っているビルは外装だけできただけでまだ工事中。オープンは来年である。写っていないが、実はその右にあるビルも現在取り壊し中である。更地になっているため青空が広がっている。
右の写真。
中央にそびえているビルは間もなく完成。オープンは来年だ。奥のほうでも工事が最終段階を迎えているのが見える。また、写っていないが、その左でも大工事の真っ最中。
たぶん、これから完成するビルのすべてが、低階層では商業スペースを持つのだろう。
そのたびに大手町は「大人の街」から「お子様の街」に変わっていくのだ。
その流れを止めることはできない。
それを寂しく思ったところで、ぼくは手をこまねいているしかないのだ。
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