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2011年10月12日14:12

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天の配剤

 乾いた風や木枯らしの匂いや肌寒さに秋の到来を感じるとき、パブロフの犬のように、ぼくはこう反応する。
「今年も日本シリーズの季節がやってきたな」
 かれこれ三十七年もの長きにわたってプロ野球ファンであり続けていると、無意識にそう反応してしまうのだ。たぶん死ぬまで変わらないだろう。

 昨日の日記で野球にちょっと触れたらもっと語りたくなったので書きます。
 だって、一九七六年六月八日にジャイアンツの末次が逆転満塁サヨナラホームランを打ったのが、ボール、ボール、見逃しストライク、ファールのあとの五球目だったことを覚えていたり、一九七七年九月三日の王選手の世界新記録756号ホームランを後楽園球場(東京ドームではない)で生で目撃していたり、過去三十七年の日本シリーズでどことどこが戦い、結果がどうだったかを試合ごとの勝敗で丸暗記しているぐらいの野球オタクなんだもの。もっと語らせてもらってもバチは当たるまい。

 というわけでイチローの話。
 覚えている方もおられると思うが、七年前の二〇〇四年のシーズン、イチローは262安打を放ち、メジャーリーグのシーズン最多安打記録を打ち立てた。八十四年ぶりの記録更新ということだから気が遠くなるような偉業である。
 その記録に向かってばく進中だった八月のある試合でのこと。
 イチローは頭部にデッドボールを受け、病院に搬送された。診断の結果、脳に異常は発見されなかったが、二日間の休養が必要ということになった。
 そのニュースに、ぼくは気が気ではなくなってしまった。体が頑丈なイチローのことだから一日だけ欠場して復帰することは可能かもしれない。
 だがその一日が問題なのだ。
 イチローがチャレンジしているのは安打数であって、打率ではない。打率なら休養はむしろ歓迎になる場合がある。試合に出なければ、打率は上がらない代わりに下がりもしないからだ。だがイチローの場合、一回でも多く打席に立つことが重要である。「どうなるのだろう」と落ち着かない夜を過ごした。
 翌日。
 試合は雨天中止となる。そして本当に一日だけの休養でチームに戻ってきたイチローは次の日、三安打と大暴れ、大記録へ加速したのである。
 
 ぼくは無宗教者だが、それでもこのときの雨には身震いがし、天の配剤を感じないわけにはいかなかった。

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