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2009年08月15日11:20

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「陽炎の辻3」第十三回<関前へ>(8月1日)

*演出 清水一彦

<原作出典とオリジナル部分>
関前へと旅立った磐音とおこん。陰警護として付き添う霧子。
見送った江戸の人々と、到着を待つ関前側の様々な思い。
途中襲ってきた雑賀泰造ら雑賀衆との全面対決は決着し、
霧子とおてんの新しい旅立ちまでも描かれた。

本来なら船の旅であるはずの関前行きを徒歩旅にしたのも、
途中で雑賀たちをからませるためか。
そもそも雑賀泰造は、原作第十五巻『夏燕ノ道』の
家基さま警護の話に登場するだけで消える人物なので、
派手な自爆場面を含め、ほとんどオリジナル。

・霧子が幼い頃かどわかされて雑賀に加わったと身の上話をするのは、
第二十七巻『石榴ノ蝿』第三章「霧子の存在」。

・金兵衛が、亡き女房おのぶに、磐音とおこんの無事を願うのは、
第二十巻『野分ノ灘』第四章「二つの長持ち」の霊厳寺墓参の場面。

・おこんが磐音の母・照埜との対面に不安を感じて、
「よろしくお願いします」と磐音に頼り、磐音がそれにやさしく応じるのは、
同じく「二つの長持ち」の、船出の場面。

・船旅と徒歩旅で設定はだいぶ異なるが、
無事関前に着いて白鶴城の姿に感嘆したり、
まず伊代の夫・井筒源太郎やその弟・遼次郎に出会ったり、
おこんが照埜との対面に、
以前贈られた帯(原作では瑪瑙の帯留め)で臨んだりするのは、
第二十一巻『鯖雲ノ城』第一章「白萩の寺」。

<全体の感想>
この回は、なんとなくバタバタと先を急いだような印象。
関前で待ち受ける照埜さまのぴりぴりした感じは、やや引っ張り過ぎのような。
その分、雑賀衆との対決は、関前到着の前に片付けなきゃ、という感じで、
超スピードで終わってしまった感あり。

いつも思うことだが、清水さんの演出は人物のアップがすごく多い。
ひたすらアップ、アップ、アップの顔ばかりが印象に残った。
体全体の芝居を見たいなあ。
(すみません。清水演出には一番辛口です)

磐音の台詞では、霧子への「我等は身内じゃ」と、
おこんへの「生涯一緒です」の暖かさが胸に染みた。
情のこもった表情も素晴らしい。

<道中の美しい自然>
第1、第2シリーズでは、街中の物売りや風景で、
かなり細かく季節感を出そうとしていたと思うのだが、
第3シリーズでは、外ロケの多い撮影の関係上、
はっきりした季節を示すのは困難になったかと思われる。

道中の景色を見れば、初夏であることははっきりしている。
でもおこんの襟は黒繻子掛けだし、あとで締める紅葉柄の帯にしても、
衣装としては秋冬のイメージ。
それだけは原作の関前行きの、秋から冬の季節に寄り添ったものか。
細かいことが気になってしまう性分なので、
ついついそういうところに目が行ってしまうが、
それを抜きに見れば、五月にロケされた道中場面は実にうつくしい。

田植えの後の、水を張った田んぼが緑を映し、
歩く二人の足元に薊やヒメジョオン。
「いい景色〜」とご機嫌のおこんがうらやましい。
若武者姿の霧子を交えて食事を摂る場面の、
したたるような緑と流れも、目が洗われるよう。
娘姿の霧子、おてんと別れる山道にはシャガの花が林立していたし、
再び二人で歩む道端には、鮮やかな紫欄の花が咲き乱れる。
緑いっぱい花いっぱい。こんな道中なら私もしてみたい。

<霧子の存在>
第3シリーズは、雑賀衆との対決を大きな柱にしてきたので、
そこから離れ、磐音の側についた霧子のキャラクターもふくらんだ。
磐音を慕い、自らの存在価値に悩みながらも一途な霧子は、本当に良い役どころ。
いじらしくてつい思い入れて見てしまう。

雑賀衆が道中必ず襲ってくるから、その時磐音の手助けをしたいという理由で、
ひそかに磐音たちのあとを着いてゆく霧子の考えは的を得ている。
それにしても磐音が霧子をとらえて詰問する場面は、
関前藩の若い藩士たちに対するような厳しい口調で、
このところ見ていなかっただけに新鮮だった。
女だからと特別扱いせず、道場の門弟として遠慮なく接していることがよく分る。

幼い頃にさらわれてきて、雑賀衆に加えられたという哀しい生い立ち。
それなのに、なんと律儀で良い子なのだろう。
その幼い日、女に背負われて山ぶどうを摘むのを見ていたという思い出は、
原作だと、乳母のような年老いた女なのだが、ドラマではそれはおてんだという。
彼女との絆の強さを示すエピソード。
年の少し離れた姉さんのような関係なのだろう。
なんとなく「赤とんぼ」の歌詞を連想してしまう。
(「負われて見たのはいつの日か」とか、
「山の畑の桑の実を小籠に摘んだはまぼろしか」とか)

すっかり同情したおこんから親身な言葉をかけられて、
すぐ打ち解けるのも、その素直なこころゆえか。
でも磐音への思いは消えたわけではないと思う。
最後、おてんとともに去っていくのは、そのためもあるだろう。
「いつでも戻ってくれば良い。我等は身内じゃ」
という磐音のやさしい言葉は、切なくも身に染みる。
健気な霧子。あなたのことは決して忘れない。
娘に戻った姿は、生まれ変わったように可愛らしかった。

<雑賀泰造の最期>
結局のところ、雑賀泰造とは何者だったのだろう。
強引で残虐ながら、詰めが甘くて隙だらけの怪人。
そのあまりに大仰な台詞回しや手振り、極端なまでの顔面芝居で、
怖いというより、大いなる道化役だったのではないか。
「誰しも皆、己のために生きておる。
そのためなら何人であろうと利用する。それがわしじゃ!」
のくだりのオーバーアクションには思わず笑ってしまったほど。

手下といえども簡単に見捨て、あまつさえ自ら手に掛ける。
よくこれで雑賀衆たちがついてきたものだなあ。
「地をはいずり、もがき苦しみ、泥水を飲んだこともない奴に何が分る!」
の台詞にも、人間的な哀しみなどさらに感じることが出来ず、
自ら放った鎌ブーメランに串刺しにされるという壮絶な最期の割に、
さっぱりとあとくされもない印象。
ただ倒されるための怪物というイメージは徹底していたなと思う。
竹内力さんの怪演は天晴。

<照埜さまの思い>
原作では、わりとすんなりおこんを受け入れる照埜さまだが、
ドラマでは複雑な顔を見せている。
いささか誇張されすぎているとは言え、これは無理からぬことだろう。
心ならずも離れて暮らすことになった大切な総領息子が、
坂崎の名を捨て、しかも町人の娘と一緒になるというのに、
動揺しないほうがおかしい。

何事にも鷹揚で朴訥な正睦が「快く迎えてやれば良い」と、とりなしても、
「それもこれもおこん殿というお方次第でございます」と言うのは当然。
正睦はすでにおこんに会っているが、照埜は彼女を見ていないのだもの。
違う世界の女として、人物像が想像しにくいのだろう。
母親にとって息子はいとしい恋人のようなもの。
ましてや、あれほど見目麗しく、よく出来た息子が、
お家騒動に巻き込まれ、運命を狂わされたことに無念の思いも強いはず。
その気持ちはよく分る気がする。

磐音の繊細さ、やさしさ、凛とした佇まいは、
間違いなくこの母上からも受け継いだものだと思う。
仏壇に向かい一心に祈る姿、着物の用意をし、懐剣を取り出す姿には、
二人を迎える心遣いと覚悟が見える。

ああ、でも磐音のほうは「我が母がいかなることを言い出そうとも」
おこんの味方であることを宣言してるわけですよね。
嫁には勝てぬか。母親って哀しいものですね。

<関前>
「美しいお城…」とおこんが嘆声をあげる通り、目の覚めるような景色。
「小さい国ですが海の幸、山の幸に恵まれ、気候は温暖、人々はおおらかです」
嬉しそうな磐音の顔に、こちらまで気持が温かくなる。
磐音のおおらかなやさしさは、この風土で育まれたもの。
架空の場所ながら、ロケされた城下町や湾を見下ろす丘の景色は素晴らしく、
西国の陽光が心地よい。

そしてここで磐音を一番に迎えるのは、妹の伊代。
思えばあの悲劇の始まりの第一回でもそうだった。
そこに呼応しながら、やっとやわらかく収束されることを思わせて、
幸福な予感に身を委ねてゆく。
いかにも人柄が良さそうな源太郎も、初々しい遼次郎の姿も好印象。
大団円が見えてきた。

<見守ってきた撮影>
極めて個人的な感慨だが、今回のロケ場面は見知ったものが多く、
なんだかすでになつかしかった。
霧子がひそかに磐音とおこんのあとをつけてゆく街道筋、
雑賀衆との大立ち回りや、霧子とおてんの組合い、
さらには関前に足を踏み入れ、伊代たち三人と出会う場面など、
熱心に見学に通ったおかげで、ほとんどに立ち会っている。
ロケ見学記(5月9日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1173139120&owner_id=949383
ロケ見学記(5月10日)
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1177114661&owner_id=949383&org_id=1174871489
あの日、あの時、私は磐音のそばに居て、
すべてを見てきたのだという不思議な気持ち。
やっとそれらの断片が、納まるところに納まったのだ。

<細々雑感>
・「さあさあもう行った行った!行け行け!」
二人の旅立ちを、わざと乱暴に追い立てるような金兵衛さん。
心中が痛いほど分かって泣けてしまう。
亡きおのぶさんへの情愛あふれる祈りといい、
今回もしみじみした。

・霧子の陰警護、磐音はどのあたりで気づいてたのかしら。
聡い彼のことだから最初から?

・早苗ちゃん、困ったさんのお父さんでお気の毒。
あからさまに迷惑そう。一所懸命働いてるのにねぇ。
赤の勝った格子柄の着物、赤い襷、朱色に花柄の前掛けが愛らしい。

・お佐紀さま、その思いつき素晴らしいですが、よく間に合いましたね!?
超特急で仕立てさせたんですね。
仕立て人ごと運んで、船のなかでも縫ってたとか?

・おてんさん、霧子に比べて今ひとつ娘姿がしっくりこなかったような。
男勝りな生活が長かったせいでしょうか。
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