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2006年03月17日00:30

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白鯨(その1)―あるいは荒くれ男たちの物語

俺のことだったら、イシュメールとでも呼んでくれ。
何年前のことだったか、こまけぇことは気にしないでくれ。
手持ちの銭(ゼニ)も乏しくなって、
陸(オカ)の上には俺の気を引くものなど何も無くなっちまった。
だから海に出ようと想った。
少しばかり船に乗って、世界中の海を見てやろうと想ったんだ。
心の中に巣くう憂鬱を追っぽり出して、血のめぐりをよくするには、
それしかねぇ。
気が付けば、口を「へ」の字に歪めちまったり、
冷たい11月の雨が、心の中にまで染み込んじまうようなとき。
街の棺桶屋の前で、なんとはなしに足が止まっちまったり、
そして、葬式の行列にトボトボと付いていっちまうようになるとき。
憂鬱すぎて、
俺自身が何をやらかしているのか分からなくなっちまうようなとき。
そうして気が付けば、人様の頭の上の帽子を叩き落としてやろうと
狙いすませていたりしちまう。
そんなとき、そんなときは、海に出ちまうのにかぎる。
それが、俺にとっての鉄砲と弾(タマ)だ。
古代ローマのカトーって奴は、哲学の言葉を語りながら、
自分の身を剣の上に投げたって話だ。
でも、俺は黙って海にゆく。
驚くような話じゃねぇ。
海ってやつを知りさえすれば、
あんただって、同じような気持ちになるはずさ。
海へと出てゆきたくなるのさ。

(紅之豚:訳『白鯨--モビー・デック--』本文冒頭)

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『紅の豚』には海賊ならぬ空賊という荒くれ男たちが出てきます。
そして、酔月さんから「パイレーツオブカリビアン」の話などを聞いていたら、『白鯨』のことを想い出しました。
昨年読んだ本の中で、一番の傑作です。いや「傑作」というよりも「古典」として評価の定まった作品ではありますが、ともかく面白かった。
最近は、時間をみつけて原書を読み始めています。で、自分なりに冒頭部分を「荒くれ男」風に訳してみました。
かなり原文からはハズしています。

最初の一文は、原文では "Call me Ishmael." の3語です。
しかし、訳者によって、訳し方は以下のとおりバラバラです。

八木敏雄:訳「岩波文庫」版新訳
「わたしを『イシュメール』と呼んでもらおう」

千石英世:訳「講談社文芸文庫」版
「イシュメール、これをおれの名としておこう」

田中西二郎:訳「新潮文庫」版
「まかりいでたるのはイシュメールと申す風来坊だ」

阿部知二:訳「岩波文庫」版旧訳
「私の名はイシュメイルとしておこう」

名作など、訳を読み比べてみるのも面白いです。
どれか一つということであれば、一応、岩波文庫の新訳をお薦めしますが、千石訳も面白そうです。
『白鯨』の感想などは、またいずれ。
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