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2025年06月24日01:36

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人は、夢みたいな嘘が好き。

 先日「嘘のない芸」というのを話したら
「じゃあ嘘のある芸ってあるの、そいつはどういうものなの、教えてよ」
というのがやってきました。ぼくを問い詰めようという魂胆はミエミエ。とはいえ逃げるわけにもいかず、はい、お答えします。

           ○

「嘘くさい芸」というのがありますね。これが「嘘のない芸」の対局かといえば違います。
「嘘くさい」は、芸以前で、ただ下手くそなだけ。
「ホントとは違うはずだが、どうにも気になるし、面白いね」
というのが本物の「嘘のある芸」というものです。

           ○

 実例でいきます。
 仏壇に拳銃を発射する相手、美能に、
「昌三、お前、なにやっちょるか、わかっとるんか」
「山守さん、まだ弾は残っとりますよ」

 名作「仁義なき戦い」の山守親分こと金子信雄と菅原文太とのやり取りです。
 ゾクゾクするようなシーンですが、実はホントらしさはないデフォルメされた現実。観客はまがまがしい偽の現実に持っていかれます。

           ○

 この金子信雄の芝居のような演技を、わが国ではケレン味のある芝居と呼んできました。(ケレンというとインチキ感が強いので、)「ケレン味豊かな」と少し支えを入れておきましょう。
 現実がデフォルメされていて、それでいて濃厚な現実が再現されている。
 ダマシ絵のような表現と理解してください。

 成田三樹夫、天本英世、二人の東大俳優もなぜか「ケレン味豊かな」役者でした。ついで、です。

           ○

「ケレン味」の大元でいえば、宙乗りの市川猿之助がいます。歌舞伎座の天井を馬が踊る。芝居という嘘の、さらに上をいく大嘘です。

 歌謡曲の世界ではずーっとケレン味が真っ盛りで、3分の悪女、3分の悲劇が、渦を巻いています。
「誰かに盗られるくらいなら あなたを殺していいですか」 
「あなた死んでもいいですか 胸がしんしん泣いてます」
 
 野球にしたって、長嶋さんのプレイ全体がケレンそのものだったという人は、数多くいます。

 真実と見まごう、真実らしさ。嘘とホントがないまぜになった、混沌と恍惚。
 こうも人を惹きつけるケレンの持つ魅力はどこにあるのか。

           ○

 人は嘘が好きなんです。それは、どうしてか。人は、(時にですが)現実をひたすら徒歩で生きていく退屈な人生にアキアキしているのです。郵便貯金のような決まり切った人生から、(一回でいい、一回ならいいか、と自分に声をかけ)、えーい、
「転げ落ちてみようか」
とさえ思っています。

 嘘にふと身を寄せ、違う人間になろうとします。
 変身願望と呼応しているのかもしれません。
 もしかすると「変身」というのは「夢」の言い換えなのかもしれません。

           ○

 もうほとんど答えが出ているようなんで
「嘘とはなにか」 
を語った、歌謡曲の世界で最高とされる2フレーズを紹介します。同じ曲で使われた前後のサビです。できれば曲を聞いてください。曲名は「そして、神戸」です。

「夢のつづき見せてくれる 相手 捜すのよ」
「誰かうまい嘘のつける 相手 捜すのよ」

 行き着くところ、うまい嘘とは夢のカタチをした「偽の現実」のようです。

           ○

 まったくのついでですが映画「マルタの鷹」のラストでサム・スペード役のハンフリー・ボガードが、犯罪の引き金になった彫像「マルタの鷹」を手にして言う。
「こいつぁ、なんですか」
「夢の塊(カタマリ)さ」
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