mixiユーザー(id:5708627)

2023年11月12日12:32

77 view

流星のひと。32 はぐれ鳥の空。

 藤恵子は「はぐれ鳥」だった。

 見上げれば灰色の空、荒れた大地には一本の立木もないし、啄(ついば)む場所もない。さあ、どうしたらいいのだろう。
 デビューの頃から楽屋でも誰とも口をきくことのない、ひとりぽっちの歌手だった。「八代亜紀さんや森進一さんが、一人でいる純ちゃんに声をかけてくれたり、とても可愛がってくださいました。それがどれほど助けになったことか」最初の担当マネージャーの成田さんは言う。けれど、今度はそれさえもかなわないまさしく芸能界の「はぐれ鳥」だった。

 藤原氏の「ニュージャパンプロダクション」との訴訟沙汰が、契機になっていた。契約には、同行する男が次々と口出しをしても良いと書いてあるはずもない。
「好きな男女が一緒になって、どこが悪いんですか。古いですね」
と、同棲をめぐって事務所と対立し裁判にまで発展してしまったのも遠因になっている。と当時の芸能週刊誌「平凡」は書いているのだが、訴状の主因にできないだけのことで答えは明らかだ。こんな切り口上が出て、ことは平和に進むはずはない。

 レコードは売れず、次の手を打とうと旧知の人に相談をしてみるのだが、ほぼすべてが頓挫した。
「藤が元の所属事務所やレコード会社ともめて、レコードを出せなくなったのも宇多田照實が原因なんです」と芸能関係者が当時の事を伝えている。新栄プロにも、RVCにも相談したことだろう。
「宇多田はシロウトのくせにあれこれと口を出し、いろんなところでトラブルを引き起こしていたようですね」

 宇多田がいると言うだけで相談相手は乗り気になれない。当たり前のことだが、それにしても宇多田は権利についての口出しが多く、執拗だったらしい。なかなか仲良くできない構えと言えそうです。わざわざ弁護士を連れて友人と談笑する人はいないよね。
 そう言えばかつて石坂まさをが「原盤権」と言う知恵をつけた事を思い出す。藤圭子は、「うるさ方」を呼び寄せる癖があるのだろうか。共通点を探せば、宇多田も石坂も、極貧の生活を背景にした男だった。

 藤は、いったん信用すると疑うことがない性格なのだろう。相手にはゴネ屋でも、藤にはまわりを幸せにする正論としか感じなかったのか。(だから平然と目の前で話を続けさせてしまう)二度と合わなくなる。
 そのことは、あれほど大事だった母親とのやりとりにも変化が現れてくる。無念の思いを語るのは、竹山幸子さんだ。 母・竹山澄子さん(故人)の姉で、藤圭子にとっては叔母にあたる。
 行き着くところお金の話になるのだが、
「純ちゃんは、男を立てる女性だった」
「ホントに残念だった、けれどこれも運命だったのだろうね」
と悲しそうに語ってくれる。

 レコードは出せないし、すっかり世間が狭くなった藤圭子は、誰に会うこともないし。広尾のマンションに立て籠る日々を過ごすことになる。
 もう一度、叔母の言葉を借りれば
「クローゼットの中は、宇多田のブランド物で一杯になっていく」
 実際のところ、この時期は藤の貯えに支えられれた居直(いじき)の暮らしなのだが、気兼ねなく権八する宇多田を藤圭子はとても大事にしていた。

 正式に結婚したのは82年6月、訴訟騒ぎがはじまった1月から半年後のことだった。N.Yで知り合いとりわけ近しい友となった残間里江子(出版プロデユーサー)が立会人となり港区役所に結婚届を提出している。

 広尾での言わばなにもない「はぐれ鳥」暮らしから、N.Yに戻ろうとした藤圭子は即、金の問題に直面する。ここから宇多田の手慣れた言葉
「売り飛ばせ」
と言う声出しがスタートする。

 広尾のマンション(途中から広尾という表記が多くなっていたが六本木との中間位置で)、この文のはじめ藤圭子が母親のために寝ずに働いて買ったあの六本木のマンションを売ることになる。N.Yでの当座の生活費用と、宇多田の父親が拵えた借金を整理するためだ。植木職であった宇多田の父親の借金は大半はギャンブルであったと言われるが、いまはもう真偽はわからない。

 六本木のマンションを売ると、母親は綾瀬にマンションを買いそこに暮らすことになる。藤圭子はN.Yに出発する。藤圭子のかつての悲願の一部は東京という宇宙に流星のようにあっけなく飛び散り、健気な娘の物語は主題を変質することになる。

 N.Yに戻るとまもなく
「子どもができたみたいなの」
と一度は日本に帰ってくる。仕事は休眠中なのだが、往来は忙しい。
 
 戻るとすぐ、残間里江子の友達の紹介で診察を受け妊娠を確認すると、3人(宇多田夫婦と残間)は英文の診断書を書いてもらい大喜びする。藤の子どもはアメリカ生まれになる(アメリカの国籍を取得できる)ことは、ここではもう自明のことになっていた。
0 3

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2023年11月>
日 月 火 水 木 金 土
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930