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2023年08月25日06:07

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シャンバローとケンカしちゃった日。

◯2006年10月03日の日記再掲載

「シャンバロー」というのは、昭和30年代の東京のボーイズもののいちばん古手。
いわば親分のような存在で、色物、膝代わりとしては
とても上等な存在で、決まって大看板の前に出て来る芸人でした。

組み合わせは、
 三味線(柳ちゃん)、
 ギター(岡ちゃん)、
 アコーディオン(邦ちゃん)、

の3人組。(後に人気者になった東京ボーイズの師匠にあたります)
歌謡漫談を粋にたのしくやりまして、
さあ、おアトは落語の大師匠がでてきますよ。となるのだが、
(と色々説明が必要な話しは、それ自体が無理があるのかな)
だがしかし、そこを構わず書き進む、と。

ずーっと、ぼくは、腹が立ってならなかったのだ。
なぜかと言えばいつも同じ歌、同じ話し、同じ下げ。
よく言えば超マンネリ。そのマンネリをいつものように大人はたのしむ、ということなのかもしれない。

けれど中学生のぼくは、それができない。ずーっと怒っていた。
「一体こいつらは芸をなんだと思っているんだ」
そうして気持ちは進んで
「芸術協会はだから、そこのところがだめなんだ」
「春風亭柳橋(当時の会長)、わかってくれ」
とまで思っていたのです。

その柳橋の膝代わりに出て来たのが、どんぴしゃんとハマったように、シャンバローだったのです。
いつものように、いつもの芸、そして下げのところまでついに来た。
それまでひと言も声を出さず、ひたすらアコーディオンを弾いていた、お人好し顔の邦ちゃんに、
リーダーの柳ちゃんがひょいと絡みます。
「邦ちゃんはいいよね、いつも黙っていて」
手で口元を押さえ、小さい声で(これで同じギャラ)、すぐ返すように
「お客さんも、一度ぐらい邦ちゃんの歌を聞いてみたいよね」
ここで客席はシーンと静まり、
「そりゃ無理だ」の客席一杯の思い入れを利かせて終わるのだが、

ぼくは、持ち前の反骨がふつふつしてきた。やにわに
「パチパチパチ、パチパチパチ」大拍手をしたのです。
「邦ちゃんの歌を聴きたい」という意思表示です。

リーダーの柳ちゃんのおどろいたこと、おどろいたこと。
あわてふためいて(なにせ拍手でされたときのネタがない)
けれど拍手で催促されているわけで、
「最近の客は変なのがいるよね」
最前列、学生服のぼくを舞台のへりの上から見下ろすように怒鳴り付けた。
顔はまっかだった。

さあ、こうなると、ぼくの反骨はさらに大爆発だ。もう一度
「パチパチパチ、パチパチパチ」だ。
場内、咳(しわぶき)もないほどピーンとしちゃった。

三味線を抱えて柳ちゃんは、いよいよ行ったり来たり
「頭のおかしいのにかまってられないよ」
などおよそ芸人らしくないことを言って下がったのでした。

そしてトリの春風亭柳橋、いつもはさっさとやって、さっさと帰る
早く終わり早く帰るの柳橋だが、その晩は長考一席「明鳥」を演ってくれました。

ぼくが野暮だったのか、いまでもわからない。わからないけど、もう一度同じことするだろう。

だって、春風亭柳橋はめったに本気にならないことが有名な名人なのです。
(戦後、何回本気で演ったのか、という人がいるくらい)
芸を惜しむ芸人はいけないのです。シャンバローだって名人です。
アグラさえかかなければ、ずーっと名人なのです。あの陽気さ、あのアロハおじさんの色気はちょいとないもの。
それは、わかっているのです。でもねぇ、芸惜しみは客を馬鹿にしている、と思っちゃう少年もいるのです。

いまにして思えばですが、記録にも残ってはいないことですが、その晩の春風亭柳橋の「明鳥」は、柳橋の最後の名演ではないかと思っています。
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