◯2006年10月04日の日記再掲載
駅前のパチンコ屋、親父がなかなか性悪で有名なヒノマルホールの前で年配の夫婦がアレコレもめている。
「あんたねぇ、すっかり呑まれちゃって、どうしたの」
「いや、もう少しで来るかと、うーん」
「いやもなにもねぇ、こっちがイヤになっちゃうわよ」
もう一方的だ。ぼこぼこだ。
そうはいってもオバサン、男はこだわる生き物なんだからと、かわりに話してもいいんだけど、やっぱりわかってもらえないかな。
「あー、もう、こんな世の中、イヤイヤイヤ」
と小松政夫を思い出していたら、突然、パチンコ屋のドアが開いた。
チャン、チャン、チャチャラタ、チャラララーン
軍艦マーチがガナリたてるように聴こえて来る。そしたら、こんな世の中じゃない、遠くてすばらしい世の中に、この音楽が、ぼくの頭を「あ、あー」連れていってくれました。
チャチャラタラタ、チャラララーン
露払いの芸者姿の小松政夫が、腰ふりふりくり出して、
頭をふりふり東八郎のバカ旦那。
そして、ラメラメ衣装に、ムチを持ち、
ちょんちょこリボンのその正面、
オデコに赤い〒マークの伊東四郎がやって来る。
「はい、人の迷惑かえりみず、
やって来ました電線軍団
わたくし、かく申すベンジャミン伊東にございます。
はーい」
ここからはじまる電線音頭は日本ギャグ史上空前のできだった。
「ヨイヨイ、ヨイヨイ」
ギャグのレベルを変え、伊東四郎の人格をソックリ入れ替えてしまったのです。
「おっと、と、と、と」
先輩コメディアンが
「どうしたんだ、伊東は馬鹿になったのか」と言ったそうだが、どうしてどうして、コメディアンにとってこんなホメ言葉があっただろうか。先輩の行く末は知らないが、伊東は空にカケのぼった。
「チュチュンがチュン、チュチュンがチュン」
はやし言葉が宙を舞い、見る人を日常の彼方に連れていく、魔法のギャグの化身になったのです。
(なによりお笑いに一番大切な破壊力があるのです。あなたの、きみの、誰かさんの、昨日までの常識を一気にくつがえす破壊力です。世の権威さんが、ちいさーく見えます)
伊東四郎の大化けはここからはじまるのですが、実は小松政夫の影響が大きいと思っています。伊東四郎の弱点、リズムが小松政夫とカケ合うことで「ほんの少し」アップしたのです。
浅草演歌調からナベプロ仕込みのPOP調へです。
この「ほんの少し」が大きくて、「ほんの少し」をつかめるかで大化けの別れ道を、右と左になるのです。
そのおかげでしょうか、ここまで伊東四郎が培ってきたすべての芸が、いよいよ生き生きしてきます。
あの「マルサの女」では、じーっと目を寄せるくさいお笑い芸が、芸達者ぞろいのリアル芝居の中でグィときわだちをみせるのです。テーマソングにのると、ずぼんとはまり
「なんという人間離れした欲深だ」と見る人をたじろがせます。
それも、なぜかパチンコ屋の主人という役でした。評判のよかった「マルサの女」ですが、伊東四郎の映画と言ってよいくらい、いえいえそうなのです。
さあ、ここから先は、何をやっても達者な伊東四郎となるのですが、それでもね、10年に一遍くらいは電線音頭をやってくれないと。あれを聴けば、死にそうなやつでも10人に1人くらいは生き返ります。そう、人助けでございます。
駅前の無敵に見えたオバサンだって、オジサンのあのヘマにさえ思わず、
「ヨイヨイ、ヨイヨイ」と許しを出すのです。これが、美しい勢いというものです。
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