てぇやんでぇ「嘘つき弥次郎」。
──談志噺・10──
ーー今日はね、「嘘つき弥次郎」、行くかな。えー、別に、大した話しじゃない。もうすっかりクダラねぇ話しなんだから。ホラ話しだよ。ホラみたことか。ホラが見えるかってことになる。こういうの若い時はテンポで攻めたけど、年食うと、声がでねぇ。調子でやるしかねぇな。エヘン、ゴホン、まあ、まあ、やってみるか。
「えー、どしたい、しばらくだねえ」
旅に行ってましたー、北の方。えーもう、憎くっきやつは北村大膳。
「よしやぁがれ、いいから、どこへ行ったんだ。仙台ってのがあるが行ったか」
えーね、仙台のずーと先、海沿いを行くよ。青森を超えて、まだ行くよ、
北海道を越える、まだまっつぐだー。
エゾを越えるよ、エ〜ゾ〜の先は、樺太。ここも超えるよ。
「北国は寒いぞ」
えー大変に寒いー、寒風吹き荒ぶ、寒風にあたると。なんでも氷っちゃうんです。
昼も夜も氷る。夜がまた来る〜ゴツン、なんだ夜の氷じゃねぇか、危なくてしょうがねぇなんてね。
「わかった、わかったよ」
水の氷ったのとお湯の氷ったのが違うってのをはじめてわかりました。
水はいいですよ、お湯のやつだ。お湯は解けると湯になる。
チンチン熱いまま。油断は出来ねぇ。
お茶なんてのは、氷っててね、カジロウジャないかってなる。酒もね、
今日はどの位カジロウか。二升五合もカジルか。
おーい、高橋、坂本、山本、どうだ、カジロウか。
うーん、山本カジロウか、という。年寄りは、わかる。黒澤明の先生だ。
「おはよー」って言うと、言うソバから氷る。道には「おはよー」が転がっていてね、
「おはよー」のかけらがゴロッ、ゴロ。「おはよー」に躓いて、おはコロだな。
陽が上がって、あったまって、あっちこっちで、
「おはよー」
「おはよー」
「おはよー」って煩くてしょうがない。返事してたらキリがねぇ。まるで前ヘ進まねぇ。
佐藤っていうのがいたよー。これがもろに氷った。氷り砂糖。よしなよ、ばれてるよ。
ションベンも氷るよ。シャーと出るんだけどすぐ止まる。氷ってるんだ。
しょうがないんでね、辺りを見ると金槌が下がってる。
こいつでカチンってやると氷が折れてシャー。カチンってやるとシャーと続けてね、うん。
カチン・シャー、カチン・シャー、かわいや別れぇの辛さ〜、なんか歌いながらね。
本物打っとね、いけないよ、目を回す。
鴨が取れるよ、朝になったら鎌持って、鴨狩りだな。脂が乗ってますからね。
前の夜だ、急に冷えてウカウカして帰り損なった鴨の脚を氷らせちゃってる。
そいつをね、チョイチョイと、鎌で刈り取って行く。
え〜鳥なれば飛んで行きたい〜鴨緑江節だね、チョイチョイ。
残った脚がターっと並んでいる。こいつのうちいくつかは芽が出る。
カモメ って位のもんだ。外国製はカモメ のジョナサンね、うん。
火事も氷るよ。火事の氷ってぇと大したもんだ真っ赤な氷だぁ。
北国の真っ赤なルビー、あたり一面。てぇしたもんだ。ルビー賞か、競馬じゃないから走らない。
だけど、この火事、水をかけると燃え出すんだ。
危ないよー。と思って水をかけると、またボーッと火が出る。
よしなさいよ、お前。と言ったって放っておくわけにはいかない。
また水をかける、ボーッ。だから、ほら、よしなさいよ。
わかんない人だね、あんたてぇのは。ほぼ止まらない。
これを「水かけ論」という。
思いついた、これを持っていきゃ商売になる。暖炉にくべりやあ、燃料だ。
しめこのウサギで、赤い氷をノコで切る。切った氷を牛に乗せると、
そこに生暖かい風だ。東風、吹かばだ。東風で火事が解けだしたー。
「解けるかー」
すっかり解けて、牛は暴れる。手の内ようがない、焼け牛に水だ。さあ、野郎、駆けだした。モーたまらない。一目散瑞巌寺、あっという間に、山に飛び込んだ。日本アルプスだ。
「お前、今どこにいる」
樺太の先の………えー、ぐるっと見渡すと、おっ看板があった、日本アルプス樺太支店。
「嘘つきゃあがれ」
牛から転げ落ちて一服つけてると、ブルルルル、にわかに唸り声。
オイオイ寄せよという間に姿を見せた。猪がすっ飛んできた。向こうのは、バカでかいよ。山のようだ。山が、ドカドカドカー。オイラは逃げるよ。逃げるオイラを、イノが追う。目の前に、大きな松、ポーンと飛び乗ると、待つ安心。イノはグルグルグル松の木まわり。
松の木まわりが、松じゃない、と歌ってやった。
そしたらイノは怒って根元を掘りまくる。グラグラ揺れて、気の揉める話し。終いにドデーン、松の木が倒れちゃった。あたしゃ、イノの背中に落っこちた。
イノも慌てて走り出す。しがみつくと尻尾が目の前、前後サカサマだ。仕方ねぇ、尻尾を腕に巻きつけて。
へ、へ、へぇー、すると隠れた金的、顔を出す。こいつを都電の終点、錦糸堀(きんしぼり)じゃなくて金絞り。
人の急所も、獣の急所同じだとギューン。思い切りひねると、野郎、ウーンと唸ってノビちゃった。
ところがだ。野郎、最後の手段だ。腹がパッと裂かれて、子供が次々、飛び出した。
猪一郎、猪二郎、、、猪五郎、猪千代、アントニオ猪木、合わせて16匹も飛び出した。さあ、ここで頼むもう一度聞いてくんないと。
「えー、何匹出たの」
シシ16匹だ。
こいつらが白鉢巻きに襷掛けぇ〜
「オトつあんの仇だ」
「勘弁しねぇ」
「さあ、神妙にしろ」の大騒ぎ。
ジャジャン、ジャンジャン、ヨー、山の中にて猪が〜
「面白くなってきたけど、山崎街道かい」
さあ、この捕物の行先は〜
「ふーん、お前(めぇ)さっきなんて言った」
イノの金的を都電の終点、錦糸堀(きんしぼり〜)、え〜〜い。
「お前(めぇ)なあ、金的の持ち主から子供が出るか」
う〜〜ん、
「えー、オスの腹から子が出るか、出るかってんだよー」
さあ、これが畜生の浅ましさ。
ーーというわけで「嘘つき弥次郎」をほぼ全編、習(さら)っちゃいました。談志は、柳家小さんの弟子、つまり元々は滑稽落語・柳派の系統です。「粗忽長屋」に代表される柳派の話しが、これがとびきりうまい。なにしろ亡くなった小三治の兄弟子。ということは国宝級となるのかな。けれどね、やるときは必ず「大した話しじゃないよ」と前振りして、はじめます。テレがあるんですかね。このテンポですが、やっぱり東京育ちなのか、立川藤四楼(高田文夫先生)が大変に似ている気がします。
ー了ー
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