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2026年03月31日03:06

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馬太男は、ぼくを愛してくれた。[汚れちまった青春ー8]

馬太男は、ぼくを愛してくれた。
[汚れちまった青春ー8]



 ぼくは他のページ(mixi)に、[汚れちまった青春シリーズ]という文章を連載していました。表題のNo.8とあるように、だいぶ長く続いた話です。
 いわゆるバカな青春もの。
 で、ね、このバカな青春ものが、なかなか人気があった。当人も気に入っていて、何度でも読んでもらいたい、という気持ちがウズウズするのですね。
 それで、若干、加筆修正してシリーズの中で一番人気だった「馬太男シリーズ」2篇をアップさせて頂こうと思いつきました。えー、まあ、バカが続いているようです。なんとかお付き合いください。

 文頭に”「モー嬢」の加藤”という名前が登場しますが、加藤は同級生で、18歳未満禁止を都内中に追い求める男で別名「18禁の加藤」と呼んでいました。「モー嬢」とは加藤が八重洲で見た、「モー嬢の物語」という(ぼくがタイトルをつけた)映画のことです。
 スクリーンの中で「モー嬢」とおぼしき牝体(女体ではない)がうごめくという大変な映画です。


          ○   ○

 実は「モー嬢」の加藤は、この前からの話しがあるのです。
 加藤は、もっともっと前から「あそこに行こう、一緒に行こうよぉ」と次々に持ちかけるのですが、ぼくは
「まだまだ、甘い」
と相手にしていなかったのです。

 ところが、暗闇にまぎれて加藤は、ぼくに近づいた。予践会という卒業生を送る会での映画鑑賞の真最中です(つまりぼくらは中学生だ)。場所は、池袋大映。とても大きなスクリーンで、きれいな客席だ。その中を腰をかがめ、スー、スーと忍び寄ったのです。
「おい、聴いてくれ。おれ、全線座に行ったぞ」

 全線座とは、学校のすぐそば、大学の裏手にある名画とストリップを昼夜、交互でやっている映画館です。(名画とストリップの取り合わせが不思議でしょう)

 もちろん加藤が行ったのは、ストリップのほう。すかさず報告にきたのです。
「あのな、すごいんだぞ。最後、風呂に入るんだ」
「入浴ショーって言うんだ。着物を舞台で脱いでって、最後の風呂の時、手をあげて背中を流すんだ」
「お前、手をあげたのか」
「いや、まあな。俺はそこまでは、まあな」
と相変わらず、妙なミエをはっている。

「実体は見たのか」
「それがな、よくわからないんだ。手ぬぐいもあるし、腰をひねったりして、いまひとつな」

 読めてきた、ぼくに頼んで「しっかりした探究をして欲しい」という誘いなんだ、これは。

 と、このアタリで真後ろの席のやつが、ぼくらの間に頭を突っ込んできた。暗くて誰かわからない。
「まあいいか。聴いてろ、聴いてろ」
「なにかのクスリ」
と、ほっといた。

「風呂と言ったって、舞台の上だろ」
「タライだ、お前、タライ」
「それでな、このタライをまたぐ。その時がチャンスだと思うんだけどな」

 この後も延々と加藤の話は続くのだが、映画が終わり、明るくなったので加藤はやはり忍びのように自分の席に戻ったのです。

 ところが、ところが、次の日、その話しは意外な展開となる。

 2時限目の授業、英語のグラマーの時間だ。教師は英語ベラベラの林のやつだ。林ときたら、実に授業の大半が世間話ばかりで本題の講義をなかなかやらない。まったくわけのわからないやつなんだ。それが、
「おい、加藤。映画の間中、エロ話ばっかりしゃがって」
から授業がはじまった。
「アチャー、ウシロにいたのは林のやつだ。もう、加藤と付き合うとヘマばかりだ」

「ストリップに行ったとか。はじめから終わりまでじゃないか」
ガーン、教室中がシーンとなった。
「いっしょに話してたのは、誰なんだ」
 ここまで来ると教室中がわくこと、わくこと。林のひとことひとことに、ドッカーンだ。ぼくは下を見た。ガックリうなだれた。机に、頭がめりこみそうになる。
「林は、おれのこと知っている」
ぼくは、あきらめ切っていた。が、林はなぜかそれ以上、追求しなかった。
「どうしてだろう」

 林の名前は馬太男。林馬太男がフルネームで、その名前からしてわけのわからなさぶりで、生徒が面喰らっている先生だ。
 ところが(ぼくは、そいつは聖書のマタイ伝からの引用に違いない。林の家はクリスチャンだと、ぼくはとっくに読んでいた)。
 少し前の話しになるが、林が、ある日、黒板に
「All quiet on the western front」と書いて
「誰か、これ、訳せるか」と言った。
ぼくは、考えもせずに立ち上がり、
『西部戦線異状なし』
と答えた。だって、これはぼくの得意分野の映画だし。スーとでて来る。おはよう、こんにちは、というくらいのものだ。
 林は、あまりにあっさり答えを出したぼくに、おどろいたように
「よくわかったな」
とにこにこしながら答えてくれた。

 全線座事件も終わって1月後、突然、林と遠回りであまり乗らない渋谷行きのバスでいっしょになった。ぼくは林の隣に座った。林も、ぼくも、黙っていた。(それでも半人分くらいの間を開けていた)
 四谷を抜け、
「次は千駄ヶ谷・私学会館前です」
と車内アナウンスがあると、馬太男は立ち上がりぼくの方を見た、
「おい、スケベ話ばっかり、するなよ」
と笑いながら言って、降りていった。

(そーかー、そうゆうことか)
 馬太男は、ぼくを愛してくれていた。うーん、確かに馬みたいに大きなやつだ。ぼくは、少しは先生って生き物を見直す気になった。
「うむ、大人らしいことするなあ」
と、ぼくは言葉にしてみた。
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