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2025年07月06日05:16

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寺山修司とタバコの煙。

 学生帽をアミダにかぶった不良高校生と一本のタバコの煙。ホホに小さな傷、少しよどんだ目。
 寺山修司は、少年と大人のさかい目は「一本のタバコの煙」だと書いてくれた。
 だからぼくは、すぐに主人公のイラストをオーダーした。

               ○

 寺山修司はサボのようなサンダル姿でぼくに近づいてきた。
「あのー、これでいいでしょうか」
 そこは三田の(芝居の)稽古場で、稽古の合間に大急ぎで書き直してくれた原稿をまっすぐぼくに手渡してくれた。ぼくは、原稿を読んだ。大急ぎで読んだ。タバコの煙はひとつの比喩で、言わば少年に起る人生の速度の変化だと書いてくれていた。

 原稿を読んだぼくは、なにかこの一文で人生が動いた感じがした。

               ○

「あのー、これで…いいんじゃないかと」
 息を飲まれて返事が遅れていたぼくは、あわてて青森ナマリに気がつき、
「ありがとうございます」
 立ち上がって、スタートのピストルのように礼を言った。
「少年はねぇ、どっかで走り出すんだ。それまでとちがう速度でね」
 ぼくは運動会を思い出した。スタートを切った小学生が走りながらだんだん少年になっていく。少年は直線の入り口で急に立ち止まり、タバコをくわえている。

               ○

「あー、じゃあ、これで」
 寺山は、奥に戻って行こうとするのだが、近づいてきた時とはだいぶ違う印象になっていた。サンダルのカカトさえ重そうな足取りで、(寺山の)もうなけなしの「わかさ」を原稿に絞り出してしまった後の疲れ、そのせいなのか。
(あー、申し訳ないな)ぼくは、そう感じた。
 いま思い出しても、そんな言葉だけが思いつく。

 だとすると、よかったのか、悪かったのか。
 よかったのだろう。そう思うことにしよう。寺山らしい原稿がひとつ生まれたのだから。

               ○

 ぼくは20代の終わり頃、「さかい目の話」という広告頁を企画し、その1回目に寺山修司をキャストした。その時の出会いなのだが、初発の原稿はぼくは相当に不満で、当時マネジメントをしていた田中未知さんに書き直しを頼んだ。
「寺山だって、どんどん変わっていくんですから」
「ぼくは、寺山の少年を書いて欲しいのです」
 これ一辺倒で譲らなかった。次々と未知さんの応援が現れるのだが、ぼくはひたすら自説を譲らなかった。

               ○

 イラストレーターは河村要助で、寺山の原稿が触発したのだろう。素晴らしい上がりだった。河村要助にとっても、最良の仕上がりではないだろうか。
「さかい目の話っていいよねぇ」
とその後、何回かぼくの企画とは知らず褒めてくれる人に出会った。その度ごとに、
寺山修司の少し疲れた歩き姿を思い出した。

 この時のゲラが欲しいのだが、どこにも見当たらない。
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