「お前、何やってんの。
しまいにぶっ飛ばすよ」
━逆さまにやるんだよ、逆さまに。
逆さまに歩いてこっちまで、来いってんだ。普通にやっていたって、オイラたちは芸になんねぇだろう。
「このバカと60年だよ。
辛い人生だよ。わかるか」
公園で恋人同士、はじめるぞ。逆さまだぞ。
「のーあ」
う、う、なんだ。
「あのー」と声をかけました。
そうか。
「のーあ」
「よきすがたなあ」
「え、え」
「あなたが好きよ」って言ってるんだ。わかんねぇのか馬鹿やろー。
「よ、き、す、がたなあ」「あなたが好きよ」…はい、はい、わかりました。
「のーあ」
「よきすがたなあ」
「れそいかとんほ」
「ヨモクボ」
「よのいな やじそう」
「え、え、えーと、くちじょうひ」
━非常口じゃねぇか、馬鹿やろう。
こいつ、なに看板、読んでんだ。
どうも名調子だなあ。青空球児好児です。この逆さま言葉でほろっとくる人は多いんじゃないかな。どれが一番ウケタかと言えば人によって違うのだけど、ぼくには「れそいかとんほ」。ズ抜けてる。
意表を突くギャグなんだよね。アレっと脳が宙に浮く。
「れそいかとんほ」とやられたしにゃあ、もう神がかり的に感動します。
「俺はねぇ、高輪商業、出てんだ」
ネタにも使っていた高輪商業(いまの高輪高校)出身の青空球児が「れそいかとんほ」をかますのだが、ここでだ、ぼくは真似て
「れそいかとんほ」
と声を出しながらパイを切り出した。(そうです麻雀の最中です)
するとすぐに相の手が出た。ポンをするように声がかかる。
「あいつねぇ、売れなくて、年中、ウチまで金を借りにきてね」
「たんびたんび5千円貸したよ。返してくれるわけないよ。売れてないんだから。笑っちゃうね」
「下地(青空球児の本名)はね、同級生だったんだよ。しょうがない奴なんだよ」
ぼくの近所の家具屋の長男、稲川さんです。無類のお人好しとされている人。(「夕陽と大車輪」の稲川さんのお兄さんです)高輪から早稲田の政経を出た後、「バンダイ」に勤めた。
ほら、またも危険を感じるでしょ。はい、地雷が腹を空かしてヘタヘタ歩いてきます。
だって青空球児は東洋劇場でくすぶっていた。東洋劇場はタケシが育った小屋。まずいことに「バンダイ」は浅草が本社、目と鼻の先も先、同じ町内。青空球児、トボトボやってきて、あのー、
「はい」
とお手出しです。
というわけで稲川のお兄さんは、(おウチがお金持ちだし)さほど嫌がるでもなく引き続きお金を貸し続けていたそうです。
「ゲロゲ〜ロで当たるまではてんで食えなくてね。ほんとにヤンなっちゃったよ」
という球児の芸談を見つけたね、タケシの境遇を思い出せばそりゃ当然のことだ。
「だってねぇ、1日100円のギャラだよ。100円で全部だよ」
売れないことが元で相方と悶着を起こしていると、そばに好児がいた。
「おい、お前、明日空いてるか」
と持ちかけた。そこから不意に「ゲロゲ〜ロ」が飛び出した。それまでうんざりするほど食えなかったのになあ。
「あーそうか。その頃だったんだろうな。稲川さんのところに通ってお手出ししていたのは」
と思い浮かべるぼくのあたまに、
「れそ すでとんほ」
と電球が点いたのです。
○
一応、逆さ言葉をひっくり返しておきます。
「あのー」
「あなたが好きよ」
「ほんとかいそれ」
「僕もよ」
「嘘じゃないのよ」
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