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2024年12月12日04:51

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岡本喜八郎は叫ぶ。

 映画監督、岡本喜八の番組がNHKでありました。生誕100年の記念企画です。冒頭でね本名が出てきます。とたんです、わたくし、大喜び。
 画面に岡本喜八郎、と書いてあるじゃないですか、喜八郎です。岡本監督の本名は岡本喜八郎だと言うのです。まったく意味のない偶然の一致に過ぎないのですが、不思議にうれしかった。

 あの「肉弾」の岡本喜八と同名とは感激です。同名なんてなんの意味もないが、ぼくはあのATG映画「肉弾」を尊敬していてね、その続きでなんとも言えぬ喜びが生まれちゃうんですね。子供っぽい人間です。

「兵隊さん、死んじゃいかんよ」
 両腕がない(両腕がないんですよ)おじいさん。古本屋のおじいさんですが防空壕がわりのトンネルで小便をもよおす。それを「あいつ」こと寺田農が手伝う。なにを手伝うと言えば、両手の役目をするんですね。画面の下に切れているのだが、つまりホースを出し、支える役目。
「うーん、ふー、こいつはいいもんじゃ」
 人手にホースを支えられながら、高らかに放出していく音。解放感。

 下を向きホースを見つめている「あいつ」に、またあのセリフ。
「兵隊さん、死んじゃいかんよ」
 古本屋のおじいさんは笠智衆で、あののうのうとしたセリフに戦争と軍国にカッカしていた学徒兵の「あいつ」は不意に毒気が抜けてしまう。少しほうけた顔になる。

 寺田農のぼけ顔はよかったなあ。何かにとりつかれている人間が解き放たれる。その顔だ。

 岡本喜八の作品は
「悲劇も喜劇もあるが、半分は戦争に関わっている」
と本人が言っている。岡本喜八は、何を追い求めて戦争を撮り続けたのか。
それは、この何かにとりつかれている人間が解き放たれる顔、だったのではないか。

 1970年前の暑い夏、新宿ATG。
 寺田農のぼけ顔は、たくさんの学生のこころを揺らしたのではないか。
 任侠映画の主人公を自分と思うか、「肉弾」の「あいつ」になるべきか。もっとストレートの方がいいかな、高倉健か、寺田農か。

 どちらにしたかはともかく、ここでクッションをつけたのは岡本喜八の歴史的意義だと思う。

 古本屋のおばあちゃん、つまり笠智衆の奥さんは北林谷栄でこの映画には(現在まで含め)日本最高のジジババが出ていたことになる。
「みんな、帰って、こんのよ」
と言う北林谷栄のセリフの奥の深さ。

 沖でドラム缶に魚雷を括り付けられて敵を待つ「あいつ」。
 ポロっと外れて、まるでゴム動力のおもちゃのように自分から離れていく魚雷。シュル、ル、ルー。
「オーイ、オーイ、どこへ、どこへ行くんだー」
 また、寺田農のほうけた顔。

 沖でし尿処理船に助けられる「あいつ」、この処理船の船長が伊藤雄之助。これほど人間臭い名優はいないなあ。し尿処理船が一気にリアルになる。
「そうだね、処理船とはきっとこう言うもんだ」
と理解してしまう。
「おぉい、わかったか。じっとしてんだぞ」
と初代・文句いうの助こと伊藤雄之助がジロリ。
(と言う具合で見て欲しいとこだらけの映画だ)

 やがて曳航するロープが切れ、漂流する「あいつ」。
 プカ、プカ、プカーッ。
 カメラが近づき、覗き込むとドラム缶から、ハミ出すような大きな声。

『バカ野郎ーっ』

 突如、現代の(と言っても1970年前の)江ノ島に響くんだ。
 黒シャツ、黒ズボン、黒ずくめの監督、元学徒兵・岡本喜八郎は鶴のような痩身の体をそらせて一緒に叫んでいる。
『バカ野郎ーっ』
 オイラもあの時、叫んでいた。かな。
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