リカはいい役者になった。
劇団ひとり版「浅草キッド」を、またまた見直した。
深見千三郎の女房、麻理を演っている鈴木保奈美をもういちど見たかったからだ。最初に見た時から
「えー本当かい。化けたねぇ」
とびっくりしていたのだけど間違いない。
「これは芝居、ホントのホントの芝居だ」
もう一度、ひとりで心底、言い直していたね。惚れ直したでもいいです。
えーと、深見千三郎は浅草フランス座の座主兼座長、ビートたけしの師匠。一応念のため。
「東京ラブストーリー」の赤名リカが当たりすぎちゃって、何を演ってもリカになっちゃう。
「それは世間が、悪いのか」ってぇとそうじゃない、やはり本人のタリンタリンは脳タリンと言うか「努力が足りん」としか言いようがないのだろうね。
「客のせいにしてどうすんだよ」
深見千三郎なら、この一言だ。
月末に足りない金を土地の金貸し、風間杜夫に借りに行く。
「一応、数えてね」
風間の声に、不慣れで貧乏くさい手つきで札を数える。
「どうなんだい、もう無理なんじゃないのかい」
(閉めたらどう)と急かす風間の声に、聞こえぬフリ(いいねぇ、このフリの芝居)
「………今月もありがとうございました」
と話を切るように立ち上がる。
さて、この「浅草キッド」、息子にもらったもので満載の「たけし伝説」は感動はするのだけど、ま、知ってるよね。ところがだ。鈴木保奈美の麻理ちゃんには、まいった。女の鏡、女の高倉健。シビレるようなストイシズムだ。
「あたしねぇ、芸者に出ようと思うんだ。その方がお金になるだろう」
深見をなんとか納得させて芸者に出る。
(注:深見千三郎の妹は「美ち奴」、浅草の芸者出身でかつての人気歌手)。
座敷の酒が抜けず、帰り道、足を取られて自転車に倒れこむ。
バタバタバタ、自転車が倒れていく。
「鈴木保奈美、いい役者になったねぇ」
とは言ったのだが、それ以上説明はしなかった。そこでだ、いい役者とは何かをあらためて説明します、
えーと、一行で説明します。一行なんで、よそ見しているとアッと言う間、通り過ぎちゃいます。さあ、行きますよー、ってんだ。
あのー役者の真髄と言うか最高潮は、
『身を捨ててこそ、浮かぶ瀬もあれ』です。
ここまで行ってはじめて芸になる、とぼくは思っています。
「身を捨てる」と言うのは、余分な自我なぞ捨てちまえと言うこと。かつてどんな有名だったか、世間は自分をどう見てるか、そんなものが残っているうちは自分で自分を見ている目線が残っていて「臭い芝居」にしてしまうのです。
鈴木保奈美、見事に我を忘れています。だから、最高の芝居です。
もちろん赤名リカなど跡形もなく消えています。「身を捨てる」の例を赤名リカにしているのでわかりやすいでしょう。
「あたしねぇ、あんたのコントが好きなんだよ」
「だからねぇ、小さい小屋でいいから、もう一度演ってみようよ」
女、高倉健は、深見千三郎を置いて先に亡くなります。もはや仏壇の位牌ですが、今度はホントの役者として人間、保奈美が見る人のこころを捉えます。
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