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2024年06月08日05:22

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マキノ雅弘、映画渡世の「ラスト運動会」

○2008年07月24日の日記再記載

「日本映画の父」と称される人に牧野省三がいます。

 もともとは京都・千本座の小屋主でしたが、ひょんなことから映画に出会い、「ワシ、これをやるー」と映画作りに打ち込みはじめました。映画は「1.スジ、2.抜け、3.動作」がポリシーで、大手資本と孤軍の戦い。その中で、伝説となったたくさんの若い映画人を育てています。

 息子がマキノ雅弘、(あきれるほどの借金と共に)映画作りを受け継ぎました。およそ途切れない借金を引きずりながらも生涯261本と言われる多作。ですが、1本の駄作もないという見事な監督人生でした。面白いのは、立派な人かといえば珍談・奇談、数しれずでキリがない人。文中の満洲での体験、ハート型の淫毛のところで実感ください。
 10人ほどの人物が登場しますが、ほとんどが故人。さて何人、わかるでしょうか。

 牧野省三は、マキノ雅弘を「マー公、マー公」と呼んでいたそうです。

 意外なところでは、安室ちゃん出身の沖縄アクターズスクール校長はマキノ正幸、マキノ雅弘の弟・マキノ光雄の息子です。これも一族の伝統でしょうか借金逃避行から始まったとされています。

                   ○


「森の石松の目を開けたのは、どうして思いついたんですか」
「どうしてってねぇ、惚れた女に会いたいと思えば何でもできるのが男だよ」
 森繁の名人芸のはじまりとなった映画「次郎長三国志」の森の石松が目を開けるシーンから話は、はじまった。ぼくは慌てふためくように聞いていた。到底待てなかった。

 マキノ雅弘は学芸大学駅前、碑文谷公園の池を見つめながらポツリポツリと語ってくれる。池の水を眺めながら、老人が杖を手に話す姿は遠目で見れば「人生の黄昏」そのものようだが、実はこの人は
「日本一の多作監督、マキノ雅弘なのだ」
ぼくは大きな声をだしたかった。黙っていれば、あんまり淋しいじゃないか。

 例によってマキノは多額の借金に悩まされていた。それで連絡もとれず、やっとこさ教えてもらってできた隠れインタビューだった。(掲載時より)20年ほど前のことだ。借金とは危ないものなのだ。

 例によってというのは、マキノ雅弘の仕事人生は、身内のこさえた債務に追われ続けた日々だったからだ。その多作も、借金整理のための仕事づめから生まれたとされている。

「撮る、撮る、撮る」年間40本も撮った年があるという。

 でもね、すごいのは何本撮ろうとどれひとつ「ハズレ」がない監督だったのだ。人生のうちに1本位、名作と呼ばれるものを撮り、あとはもやもやと遺産で食っていく、という監督がいる中でなんと「ハズレなし」だ。

 というようないきさつを含めNHKが1時間半の特番をやっていた。ここで書かせてもらった市川昆などを紹介していた、あの枠だ。

 ぼくは、あの時の碑文谷公園の池の水を思い出したりしながら見ていたら、池を取り巻く歩道に何かがモーレツに突っ走ってくる。
「あれぇ、なんだ」
 血刀引っさげた板妻がやって来る。
 片目の森繁石松が出てくる、
「いよー、健さん」がでてくる。
 そうして藤純子(現・富司純子)だ。(ぼくの最高女優同着1位)

 あれこれ解説なんてしているヒマないや。とにかく多すぎる。多すぎる感動と思い出が、運動会のリレーのように次々と走り出す、まわり出す。池のまわりは日本映画のメリーゴーランドだ。

 パーン、あれ、ピストルが鳴った。
 タタタッタンターン、タタタッタンターン。

 板妻の血刀がバトンに変わり、真っ白い脛が踊っている。森繁がお茶ら気ながらバトンを受けるとすかさず健さんが
「なにやってんですか」
と不器用に声をかける。

 李香蘭が「がんばれ、がんばれ、日本」のかけ声。
 あ、森繁、こけた。
「あんさん、なにしとんのや」
 と、これは嵐寛だ。
 なんと(碑文谷公園の)ポニーに乗って天狗のおじさん走り出す。

 あはれ春風に 嘆くうぐいすよ
 李香蘭、その姿に感動して歌い出す。

 あ、鶴田がすかしてバトンを受けた、七三の構えで走っていく。七三で着物の裾が割れている。
 あれ、池部良が真ん中の橋で、天気なのに傘をさして待っている。

 汚(きた)な袴を両手ではしょり、山上伊太郎が走っていく。「浪人街」のあの走りだ。
「駈ける、駆ける、駆ける」。映画のタイトルのままだ。

 大きな顎をなぜなぜ、山中貞夫が見つめている。
「マーちゃん、ええ運動会やないか、ええ運動会やないか」

 応援席では白系ロシアの女の子が踊っている、あ、薄いブルーのブルマが引き千切れている。ハート型に刈った淡い色の淫毛が覗いている。
 ブロンドの「あー、なんて綺麗な淫毛だ」。

 バーン、バーン、バーン。
 突如、花火が打ちあがった。

「いい一日でしたね」
 藤純子が、あの特徴のある顎で口元で引きしめるように声を出した。

「マー公、ええ運動会やったやないか」
 親父さん、マキノ省三の声が(テレビでマキノ省三を演じた伊東四郎の声で)天から降ってきた。
 
 ぼくの、架空の運動会はバ、バ、バーンと終わった。
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