運命とは、意外とそこいらに無造作に転がっているものだ。
カメラアングルの話をします。ドラマの中で運命が動き出す時は、カメラはキリリとフォーカスを合わせ待ち構えています。運命というものは特別な存在として見る人の前に主役として登場します。
ところが引いた画の片隅で運命が動き出している時は、(これが本当の世の中の姿なんだろうが)ほぼなにもわからず運命に接し、さほどの自覚もなく巻き込まれていく人の姿を見ることになる。俯瞰からのぞき見える小さな出来事。人物はタバコ半本分もない大きさ。すべてが無情で滑稽な人間ドラマに見えてくる。そこでは、運命なんて無造作な石ころ同然にすぎない。
真っ白いホリゾントになったステージ、まばゆい明るさ、ステージ中央から向かって左、黒っぽい背広の集団がいる。通路分、間をあけて袖よりの左、華やかなステージ衣装の女性中心のグループ。プロ野球選手と歌手との歌合戦とでも言う番組なんだろうか。
フイナーレの挨拶なのだろう、全員がMCに促されゆっくり中央に進みはじめる。黒い背広の最後尾の男が少し間を開けて歩いていく。
「あれ、なんだ、変だなあ」
まるで不良高校生のような襟の高いシャツ。パットが効いた肩。大きく手を広げた。歌手たちみんなの最後尾をトボトボとついていく女性歌手の後ろから指先で肩をポンとついた。女性歌手は、
(アレ、アレ、アレ、あたしのことなの)
クルクルと見回しやっと相手を見つけた。
「あたし、あたしのことですよね」
というようなことを問いかけている。
これが藤圭子と小林繁との出会いだった。あまり見たくもなかったけど、調べるうちに出会ってしまった。ただただ「嫌だなあ」という後味の悪さばかりが残る映像。銃弾が当たる直前の兵士を見ているようだった。
実を言うとこの映像を見て、もう書くのをやめようかと思ったくらいだ。ぼくには、あまりにおぞましい画だし、それにくだらない。(ひいて言えば運命の無造作な有り様を教えるだけが、この映像の価値なのか)
巨人軍のエース級の投手だが、ぼくには地方のホストとしか思えないキテレツな背広の男。見るからに実がない、虚ばかりの人だ。
ぼくがやにわに「デパートの男」という言葉を思い出した。かつてのデパート(いまもそうかもしれない)は、たくさんの女性と少しの男性で稼働している。少しの男性にたくさんの女性のアプローチが生まれる。なので女性を操る男が、たくさんいたと言われていた。(失礼があったらすいません。昔々のことです)
さて小林繁は、出身の神戸大丸時代に同僚の女性と結婚している。大丸時代は女性客に人気で、売り場に立ち寄る人で引きもきらなかった、とされている。
ほんとかいな。ここが男にはとんとわからない。
虚と実ないまぜがいいというのか。この虚と実の精神が、日本の芸能を育ててきたのか。ボヤキは止まらない。例えば、藤の肩をついた行為、男には図々しいとしか見えないのだが、男らしいと感じる女性は相当いるらしい。
藤圭子は最初は強くことわった、と本人も言っている。
「妻とは別れるから、結婚してくれ」
小林は何度も懇願したらしい。
「男の人を尊敬したいって思ったんだ。できることなら、女は、やっぱり男に支えられて、そうやって生きていくことが幸せ何じゃないか、と思ったの。でも…駄目だった…うん…結構、真面目に考えていたんだよ…結婚を」
この時の藤圭子の声。
「うまくスキマに入り込むものだ」と、ぼくは、手練れの講じる手管を感じるのだが、意地悪すぎるのかな。どだい結婚に向いてる男であるわけはない。それが明らかになっていく。
ゴロゴロ、ドッスンー。(おーい、危ねぇぞー)
もうひとつのグンと大きめの運命の石が突然、転がり出した。「空白の一日」事件。巨人と江川の契約をどう対処するかが当初の問題だった。それが、巨人と阪神とのトレード解決へと変節してくる。巨人の交換要員は小林繁だった。
藤圭子は、江川の後見人である船田中の秘書、蓮見進(後に議員)とは麻雀仲間として面識があり電話を再三入れた。
「小林さんをトレード出さないでください」
もはや社会問題となっている、この事件の成り行きが女性のお願い電話で済むものではない。トレードは実行される。
だが小林は藤との約束を一向に果たせない。それどころか藤以外の別件の事情が次々とリークされていく。よくやってくれます。(この一連は、懇意のスポニチを通じ藤圭子は知っていたと思われる)
「…裏切られたんだよ」
と藤圭子にはめずらしく相手を問題視する声。辛かったのだろうが、つくづく嫌気もさしたのだろう。ステージ恐怖症がまたまた目を覚ましはじめた。
圭子が指針としている3つのエトスに違背している自分に気づいてハッとしたのだろう。それがすべてを思いとどまらせた。
�\亀舛隆�:自分は正義でなければならない
��副委員長:人のためになる
この2つのエトスに翳せば、自分は少しも正義ではないし、見知らぬ人を傷つけようとしている。
「あーだめだ、変わるしかない」
残るは��のエトスを選択するしかないわけで、少しづつそこに近づいて行きます。えっ��のエトスってなんだ。アメリカ行きです。
◯今回から嘘つき3部作のはじまり。ここから藤圭子は、まるで絵に描いたように嘘つきに翻弄されます。様々な変化球が繰り出されますが、今回は「虚人の人」が投げる「虚人の変化球」です。それにしてもトコちゃんで発見した無防備・藤圭子は、あの古いイタリア映画「無防備都市」の映像を思い出してしまう。もはや誰も知らないのだろうね。
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