◯2006年09月06日の日記再掲載
[ぼくのセンチメンタル・ジャーニー 2.ザ・プラターズ]
曲のはじまりは不意だった。
ユー・ネバー・ノ〜♪
映画館の暗闇の中に、この曲が流れた。
日本人ではとうてい考えられないほど低い低音ではじまり、
甘いテノールが続いて流れる
ユー・ネバー・ネバー・ノ〜♪
それはもう、夢見るようなやさしさで
ぼくは芯から溶けちゃった。背骨がいなくなっちゃった。
歌っているのは、ザ・プラターズというグループ。
この曲をもう一度、聴きたくて、聴きたくて、探し回った。
そして、やっとみつけたのが
渋谷・東急文化会館の5階、ジュークボックスの中だった。
ぼくは、まだこどもで、ジュークボックスに100円をいれるのは
ちょっと抵抗があったし、勇気も必要だった。
けれど、ドラムが回転し曲が流れるまで
じーと少し隠れるように待っていた。
はっとさせるような低音と、甘いテノールが続くと
フロアのそうたくさんはいなかった大人たちは
みんなおどろいたようになって、そして聞き入っていた。
ぼくは、すっかり勝ち誇ったような気分になった。
少し大人になっていた。
後から知ったことだけれど、ザ・プラターズには
オンリー・ユーというビッグヒット曲があり、それはみんな知っている。
けれどユー・ネバー・ノーは、マニアしか知らない曲だった。
ぼくの聴いたユー・ネバー・ノーは、正しくはyou’ll never know.という曲名で
「ヨーロッパの夜」という映画の中で流れた曲だ。
その映画はヨーロッパのショーを紹介する映画で
すぐ前のシーンはストリップだった。
女性が最後の下着に手をかけて、とろうとするのだ。
「それは、やめてくれ」
おどろいた、ぼくは、悲鳴をあげたくなった。
下着をとると、その下には小さな布切れがついていた。
一瞬で、ぼくの緊張はとれ、カラダ中のチカラが抜けると、
夢みるようなやさしい声で、ユー・ネバー・ノーが流れた。
ぼくは、もうカラダが溶けるように、この曲に浸った。
12歳のぼくは液体だった。カタチを失って、流れ出す液体だった。
映画館の暗闇の中で、ぼくという液体は夜の光りを映しながら漂った。
ぼくのR&B好きは、ここからはじまった。
プラターズは、いくつかのグループに分かれていまも歌っている。
東急文化会館は、今年、建て替えが決まった。
(この文章を書いてから12年たった。東急文化会館は、ヒカリエになった。
プラターズのその後はよく知らない)
(「ヨーロッパの夜」は夜シリーズと呼ばれヒットした映画シリーズの第一作で、
第一作だけにまだよく知られていないので見た人はとても少ないらしく、
この映画を見たという人の話を一度も聞いたことがない)
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