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2023年07月16日03:00

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流星のひと。11 ゲンコツ・ハリマノ守。

 きょうは「怒りの鉄拳受けてみよ」の項なんだけど。

「モノも言わずに張り倒す」という言葉を知っている人は、もういないだろうなあ。東京の職人言葉で、地方から出てきた人(小僧)はまずいちど張り倒され、それから「これがなぁ、モノも言わずに張り倒すってやつだ」と後から能書きを言われたりする。
「小僧なんてのあ、口で教えるより叩け」という無茶苦茶な考えで、この洗礼を何年か浴び続け半人前、一人前になっていくワケだけど中には出来の悪い親方もいるわけで、流石に見かねて
「小僧とはいえ人間だからね、鍋のケツじゃないんだぜ」と、
とがめる声もでる。もののわかった大親方や長老が諭すんだ、思い上がったバカヤローをキツク意見するわけだ。
 突然の話しですが、ぼくが怒っているのは、看板屋のセガレ、石坂の了見がこの職人根性でできていることだ。藤圭子を攻めている。様々、理由はあるんだろうが、いちばんは思い上がっているんだ。どうしてかと言えば、コンプレックスの裏返しとも言えるし、あるケレンがうずいているとぼくは踏んでいる。

「新宿の女」のレコーディングが終わり、
「いい曲が上がった。さあ行こう」というところでなぜかバッタリと突っかえた。販売日程に入れてもらえないのだ。
 根本襄はどのボタンを押すべきか考えた。ここを間違えると間違いなくボツになる。さあ、どこに行くか。
「カポネの所に行こう」
と根本は石坂に持ちかけた。カポネとはRCAの製作部長で芸能界の神様、永野
のところだった。

「部長、お願いします」
 なんの返事もなく、机に乗せた靴の裏をこちらに向けたまま知らん顔を決めている。高々とスポーツ紙を掲げている。
「お願いします。私のはじめて担当の仕事です」
 今度はふたりして土下座をした。いちどでダメでさらに頭を擦(こす)り付けた。音の出るほど頭を擦(こす)るとカポネは根本に
「おい、新宿の女は売れるのか」
とひと言だけ声をかけた。
「はい。スタジオでの評判も上々です」
カポネはなんの返事もしなかった。根本はここだと決め込んで
「ありがとうございます」
と部屋を飛び出した。男の呼吸というものだ。けれど、石坂にはなんの言葉もなかった。石坂は、この時の事をいつか見返してやるとさんざんに恨み言を言うのだけれど(知っていて言うのだろうが)これは自分に都合のいい話しすぎる。

 ナベショーがつけたキングレコードの契約を石坂のウサンくさい横槍でボツにし、デノンの仮契約もボツにしている。レコード会社の人間からすれば、石坂はもはや「危ない人間」としか言いようがない。少なくとも関わりたくないというのが本音だろう。そして、このレコードをボツにすればすぐにこの話は業界からなくなるし「危ない人間」は消える、と踏んでいたのではないだろうか。

 発売日程が近づくと今度はファーストオーダーが上がってこない。ナベショーの「芸能市場調査」がそっぽを向いているわけだから、レコード店からまったく名前も知らない新曲のオーダーが上がるわけがない。

 つまりね、石坂は自分のケレンで藤圭子の未来を危うくしているのだ。
 後日の業界評は、石坂が命がけで売り出したとなるのだがぼくにはどうもきれいごとを並べている気がしてならない。
「純ちゃんを売り出してあげて、
 大好きな母親が言うから、ぼくは一生懸命だったよ」などと得意の母親トークが出る。
 ぼくなぞは、こうまでアクの強い人から人情話が出る時はかなり危ないと思ってしまう。

 ものすごく雑な言葉を使わさせてもらえば、藤圭子で石坂は「ひと山」当てようと思ったのだ。そのためケレンを駆使し藤圭子を手元から離さず、資金(前事務所の月給40万円)も超発し、活動をはじめたというのがありそうなことだろう。
(これはかなり際どい推論なのだが、いちばんのベースになるのは石坂がどうにもこうにも素寒貧の存在だということだ)
 その中では、キングのオーディションに合格していたことを後々まで藤圭子が知らなかったことがどうにも説明がつかないし。藤プロ(プロダクション)の役員登記がほぼ石坂サイドで固められている、のも不明の元になる。

 当たったからいい、当たらなかったら一体どうなったんだろう。ここは東京、嘘の街となってしまう。
 とらえ方を変えれば、若いモノだけで業界に風穴を開けた痛快な快進撃ドラマともいえる。実際、そういう報道もたくさんあった。努力と情熱が起こしたドラマと呼ばれたこともある。すべてを若く、美しい成功に整えるきっかけはいくつもあったのだろう。並行して伝えていくのだが、実際そうはいかなかった。石坂の暴走はエスカレートするばかりだった。

(さーて、わが藤圭子はゴタゴタの中どうしているのか。�い諒絃呂鮑瞳任垢襦�
 藤圭子はすべての迷いを封印して歌うことを選ぶ。自分の歌で人生をこじ開けることを望んだのだ。それでも軋みが出る。その度に、自分の中で正義の旗をひと振り、ふた振りし呼吸を整えて人前に出る。その繰り返しだった。

 まったくの余談だが、上の3行ほど藤圭子の人生を語っている言葉はないと思っている。
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