『アクエリアス』＠TIFF2016

『アクエリアス』＠TIFF2016

　某清涼飲料メーカーにこういう商品があったけど（苦笑）、これはブラジルの歴史ある高級マンション“アクエリアス”の話。
建物が古くなったり周囲の開発が進むと、当然のように建て替えや地上げという話がついてまわる。
乳がんを克服した一人の女性がマンションとともに辿る半生を描いた映画で、ブラジルの格差社会も透けて見えて興味深い。

　夫に先立たれながらも音楽評論家のクララは40年代に建てられたマンションを好んで住んでいる。棚にはズラリと名盤のLPが揃う。もちろん音楽を聞くのに方法は何でもいいのだろうが、古いものでも価値あるものは愛着持って大事にしている。
時代は移り変わり、地上げ屋によって周囲の住人は皆退去して自分だけが残った。
最新のマンションに建て替えたい管理会社はクララに執拗に食い下がる。
地上げ屋との攻防が繰り広げられるのだが、大企業の卑劣な手段には誰もが激昂するのでは？
分かりやすいほどの陰謀の数々に、この国には警察はいないのかと首をかしげるくらいの酷さである。

　腐った巨悪の実体をさらして溜飲を下げるという作りは一般受けするだろう。
一人の人生よりもむしろ主役はマンションの方かもしれない。
幾多のドラマを見届けてきたマンションや古い家具は、それこそが価値あると言いたいのか。

　海岸線を散歩している時に、一つのラインで富裕層と貧困層との区分けがあるなど興味深い点も見られた。
クララを演じたブラジル出身のスター女優ソニア・ブラガ（『蜘蛛女のキス』『ルーキー』）の（ガン克服で）死線を超えてきたタフネスぶりが印象に残る。