2.4 ノルウェーでの誤り----統帥権論��
(訳者序)
ヒトラが陸軍出身だったので，ヒトラ政権をドイツ陸軍が全面的にバックアップしていたとの誤解が日本のみならず，米国にも蔓延している。事実は，真逆であることに注意する必要がある。
＜日本語訳＞
ヒトラが素人であることの弊害がノウルウェーにおいてもひどく現れた。この弊害は，全ての会戦において何度となく，気まぐれに表れ，しかも，時間がたつにつれて，酷くなる一方であった。いかなる分野であれ，素人の特徴は，状況が悪くなったとき，うろたえることである。玄人を特徴づけることは，緊急時における有能さあり，戦争術は，大部分，戦場の霧で健全なる判断を行うためのものである。ヒトラが冷静さを失う傾向は，２つの場合がある。戦いに勢いがあるときに，パニック的に作戦の停止を命ずる場合と 会戦のさなかの目標を変更する場合である。両方の誤りが，ウェーゼル演習にも表れた。彼の洗練されていない突然の計画についてのヒステリ的な主張，例えば，我々はナルビク--実際に鍵となる地点--を断念し，豪華客船ブレーメンによるトロントハイム港を占領するなとについて，来る日も来る日も，ノルウエー作戦における分析結果を詳細に説明した。なぜ，スカンジナビアの占領が成功したか？単に，フォルケンホルスト将軍が，ノルウェーに入ってから，総統の干渉を無視し，良兵と健全な計画に従って，見事なプロの仕事を行ったからに他ならない。
この上からの干渉は，作戦のおわりまで付随的に付きまとった。アドルフヒトラは，強権的方法をさけることなく，数年にわたり，軍隊の統帥権をえるために全ての政治的な辣腕を用いた。。権力に対する欲望は，飽くことがないことには，疑問の余地がなかった。さらに，ドイツ国民が，手遅れになる前に，彼の本性を理解していなっかたことは，悔やんでも悔やみきれないことだった。この統帥権の簒奪は，６年間の戦争全体に進路に非常な影響を及ぼしたので，この簒奪の背景の概要を述べる。
2.5 ヒトラは如何に陸軍の統帥権を簒奪したか----統帥権論��
1938年，ヒトラとヒトラの茶坊主どもは，良心の呵責なく，最高司令部の尊敬された将軍に対するセックススキャンダルという重罪をでっちあげた。同様に，連中は，この性質少しばかりの不幸な過ちに付け込んだ；詳細をほじくり返す必要はない。ナチスどもは，そのような告発に基づいた陰険なクーデタにより，プロによる指導力を転覆するように企てたことで十分である。ヒトラは，驚くべき傲慢さを以て，自分自身を最高司令間官に地位につけた。さらに，彼は，歩兵から将軍までドイツ国防軍全体に対し，自分への忠誠を誓わせた。この行為において，彼は，トイツ人気質とは，名誉を重んじ，死を賭してまでもこれを守ることであると思っているいることを示した。
我ら参謀たちは，我らの名誉あるリーダへの胸クソ悪い暴露および疑似的な暴露によって，口をつくまされ，かつ，分断され，この簒奪に実質的な抵抗を行うことができなくなった。そのため，ドイツ陸軍がドイツの政治から厳に独立を確保していたこと，これこそが，数世代に渡り，ドイツ国防軍が祖国において強力で安定した戦力を維持できた源泉であったが，終わりを迎えた。世界最強の軍事機構の駆動輪がオーシストリアの街頭扇動者の手に握られてしまった。
このこと自体は，破局的な転回でなかった。ヒトラは，軍事音痴どころではなかった。彼は，歩兵として４年間戦場にいた。これは，戦争を学ぶのに最もつらい方法である。かれは，歴史と軍事書籍の貪欲なる読者であった。技術的な事実に対する彼の記憶は，尋常ではなかった。とりわけ，彼は，大きな問題の根本原因を把握できる能力を持っていた。彼は，物事の要点を，殆ど女性的な直観で判断していた。政治家が彼の案を実行する兵士の声に耳をかたむけるならば，つねに，戦争において，素晴らしい指導力の証となる，大胆な政治的冒険--街道から出世し，ドイツを確固たる勢力として統一もたらしたカール12世ばりの人格--と我が参謀本部--世界最強の軍事的指導力--が組み合わされば，この上を望めないほどの成功をもたらしたに違いない。
しかしながら，他の人の声を聴く耳をもっていなかった。これがなければ，ドイツが破滅しなかった。大戦略と信じがたいほどの細かな詳細が，等しく彼の意識を支配していた。ヒトラが命を下すことは，我らの戦争努力による自明の理を却下することに他ならなかった。1939年11月の我ら参謀に対する残忍な演説において，これは，気が熟していないフランス攻撃への思いとどまるように我々が努力したことのよって一層ひどくなったのであるが，かれの意に反する者は誰でも無慈悲に叩き潰すと警告した。かれの多くの脅威がそうであるように，かれは，実行した。戦争の終りには，大部分の参謀が不名誉解任となった。多く者が銃殺された。もし，彼の精神がこわれずに，最初に自分自身を打たなければ，我々全員が遅かれ早かれ銃殺されたことだろう。
このようにして，偉大なるドイツ国民の力と比類なきドイツ軍兵士の武勇とが，ヒトラの素人の手による受動的な道具と化した。
[訳者によるコメント]-----個人的見解
ヒトラが陸軍出身だったので，ヒトラ政権をドイツ陸軍が全面的にバックアップしていたとの誤解が蔓延している。これは日本だけでなく，米国においてもあるようである。訳者は，内閣がヒトラの1/10でも軍部や参謀本部に対して掣肘を加えることができたならばと思わずにはいられない。ドイツは，政治家の権力が強過ぎ，日本は参謀本部や軍部が強すぎたため，破滅の道を歩んだ。両者のバランスは，現在においても，クリティカルな課題である。
この両者のバランスを取るやり方について，”さすがアメリカ”と感心せざるを得ない仕組みがある。米国には，ROTC(Reseved Officer Training Courese)の制度がある。このコースは，国家総力戦において，戦時に一番消耗率が激しい下級将校を確保可能なように，一般の大学において，基礎的な軍事教練を行って，平時に予備士官として確保しておくという制度である。実際，先代のブッシュ大統領までは，文官であっても，ROTCとして陸海軍からの招聘に応じ，対日戦に参加している。ケネディ大統領は，魚雷艇を日本の駆逐艦に沈められて漂流し，ブッシュ大統領（先代）は，ヘルダイバー急降下爆撃機を日本軍に撃墜されて，太平洋を漂流している。このように，先代のブッシュ大統領くらいまでは，軍歴のあることが大統領候補の要件であった。
余談ながら，ブッシュ大統領とコルバチョフ書記長が，地中海上の巡洋艦で会談したときに，コルバチョフ書記長が船酔いに苦しんでいたのに対し，海軍出身のブッシュ大統領は，平気であったとつたえられている。これを，知った，父，母の兄（戦時中は帝国海
軍所属）は，
”さすが，海軍出身者はやはり違うな！”
自分の国の大統領でもないのに，随分嬉しそうな発言をしていた。日本人である父達がこんな状態だから，米海軍では，新兵から提督にいたるまで，随分と誇らしげに思ったに違いない。
ROTCのコミッションを有する人たちは，官界，政界，実業界にいたるところにいる。このような人たちは，軍歴がなくとも，軍の実情に精通することになるばかりでなく，戦場から生還してきた人たちをそれなり尊重するようになる。たとえば，現トランプ大統領も，国防や軍事関係は，自ら細かいことには容喙せず，退役した将軍や提督に任せている。このような観点からすると，ROTCは，政治と軍事のバランスをとるための有力な施策であると言える。
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