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2015年09月08日22:15

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巴(2)-平家物語

「木曾殿は信濃より、巴(ともえ)・款冬(やまぶき)とて、二人の美女を具せられたり。款冬は労(いたは)りあつて、都にとどまりぬ。中にも巴は色白く髪長くして、容顔誠に美麗なり。有難き勁弓精兵、弓矢・打物取つては如何なる鬼にも神にもあふと云ふ一人当千の兵(つわもの)なり。究竟の荒馬乗り、悪所落し、軍(いくさ)といえば、まづさねよき鎧きせ、大太刀・勁弓持たせて、一方の大将に向けられけり。度度の高名、肩を並ぶる者なし。されば多くの者ども落ち討たれける中に、七騎がうちまでも巴は討たれざりけり。」

冨倉徳次郎『平家物語全註釈 下巻(一)』(角川書店・1967年)p.49

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「平家物語」の代表的な注釈書から、巴御前が最初に登場する場面を引用してみた。
「最初に」と書いたが、これ以外に巴が登場するのは、あと一箇所くらいだ。有能・有力な武将ではあったようだが、取り上げられ方という意味では、それほど大きな扱いではない。ただ、「弓矢・打物取つては如何なる鬼にも神にもあふと云ふ一人当千の兵なり」という表現は、平家物語の中でも最大級のもののように感じられる。この表現内容の「大きさ」と、書かれている分量の「少なさ」は、なんとなくアンバランスに思われる。

「英雄色を好む」というから、木曽義仲が「美女」を帯同したとしても驚かないが、ここに描かれた巴の「強さ」はスゴイ。女の細腕で出来るものではなく、相当の強力(ごうりき)であったように思われる。それが「色白く髪長くして、容顔誠に美麗なり」だと言うのだから、才色兼備ならぬ「力色兼備」ということになるだろう。

ちょっと細かいことを記しておくと、この引用文にある「美女」という言葉は、岩波文庫版などの「覚一本」系では「便女(びんじょ)」とも書かれている。そうすると、木曽義仲の身辺の世話役でもあったということになる。平時は「お手伝いさん」兼「愛人」で、戦時には「大将」も務めるということであれば、なるほど、手離し難い存在であったことだろう。

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