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2009年07月01日00:46

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「陽炎の辻3」第八回<剣客の宿命>(6月13日)

*演出 周山誠弘

<原作出典>
今回のエピソードは大きく分けて二つ。
・庚申の仲蔵一味の騒動

外道働きをする庚申の仲蔵の一味が今津屋を狙い、
引き込み役の千面のおさいが、用心棒役の竹村武左衛門に目を付けて、
酒でたぶらかすものの、磐音たちの働きで捕らえられる話は、
原作第十九巻『梅雨ノ蝶』第三章「怪我見舞い」第四章「千面のおさい」
第五章「四十一人目の剣客」。

もっとも最初に仲蔵たちが盗みを働くのは、原作の川崎と違って内藤新宿。
「外道(げどう)働き」と言われるやりくちといい、
第十二巻『探梅ノ家』第一章「吉祥天の親方」の押込みの一味の
エピソードも加味されている気がする。

・四出との決着

雨の両国橋の上で、刺客の四出縄綱と決着をつけるのは、
同じく同巻第五章「四十一人目の剣客」。
ただし四出の人物設定には、第二十巻『野分ノ灘』
第一章「紅薊の刺客」第二章「夏の灸」に出てくる岸和田富八の
イメージも混じっているようだ。
名前は違うが労咳で亡くなった恋女房を磐音の暗殺代で弔い、
女房のあとを追うように死に急ぐ男。

これらの合間に、磐音の佐々木家への養子話に揺れるおこんの姿が描かれる。
原作のおこんは揺らいだりしないので、これはドラマのオリジナル。
この話を品川家の柳次郎と幾代は寿ぐが、武左衛門は憮然とした表情。
おこんはどうなるだの、見捨てて出て行くのかとなじるのは、
同じく同巻第二章「夏の灸」に出てくる。

<気兼ねする磐音>
傷が癒えたばかりだというのに、すぐに剣の稽古をしてしまう磐音。
目に留めた竹棒を片手で振ってみて、次にはしっかりと両手で握って、
さすがに病み上がりの体でふらっとしながらも、次第に調子をあげていく。
ああ、彼はやはり剣が体の一部なのだなあと改めて感じる。
と、そこに飛ぶおこんの叱責!
素振りに気付いた台所の女衆からのご注進を受け、飛んできたのだろう。
子どものように叱り飛ばされてしまう磐音。可哀想で可愛い。

原作と違って、おこんは磐音の養子話に動揺し、臆している。
その気持ちも分からないではないけれど、
なじるような口調になったり、突き放すような言い方で場を後にしたり、
その後も彼の視線を避けるかのようにするのはちょっとあんまりな。
彼女を見つめる磐音の表情が切なくて、途中までは本当に気を揉んだ。
ドラマのおこんは、自分の気持ちで手一杯で回りが見えなくなってしまう。
もうちょっと相手に対する思いやりが欲しいなあ。

玲圓先生に養子話を断ろうとするのも、おこんに慮ってのこと。
でも先生は、この話をひっこめる気などさらさらない。
よくよく考えたうえでのことだし、剣を捨てられない磐音のためにも
それが一番良いと分かっているのだから。
先生に言われて、まず国許の父母に事情を記した書状を送るのも、
その気がなければしないことだろう。

彼だってこの道が望ましいことは分かっているはず。
それでもおこんや今津屋や、取り残されるようで不満げな武左衛門の
気持ちを推し量り、自らの気持ちを抑えてしまうのがはがゆい。
それが磐音というひとなのだけれど、原作ではもっと思い切りが良いし、
回りのひとたちも殆ど揃って祝福してくれるのを知っているだけに、
彼ばかりが責められるような展開がやるせない。

今回、由蔵さんにもいささかむっとしてしまった。
「まさかそのようなことはないと思いますが」と
佐々木道場への養子の話を、否定的ながらも柳次郎たちにばらしたり、
刀を捨てろと言っているにも関わらず、
いざ今津屋の警護のこととなると、彼のみに全幅の信頼を寄せる矛盾。
商人の世界に来いと言っていても、危なくなれば磐音の剣に頼る。
今までだって用心棒としてさんざん助けてもらっているくせに、勝手なんだから。
つくづく磐音は損な役回りだなあ。

<竹村の旦那>
今回の立役者は、ある意味武左衛門なのだろう。
ひとは良いのだけれど、とことん酒に弱いお調子者。
そこに付け入られて、庚申の仲蔵の情婦とも知らず、
引き込み役の千面のおさいに手玉に取られてしまう。
でもそのおかげで奉行所も今津屋に狙いを定めて網を張れたのだし、
まずはお手柄と言われるなんて、こちらは得な性分と言うべき。

いつだって言いたい放題、やりたい放題。
磐音は旦那の生計を気遣って仕事を回してあげているのに、
旦那ときたら口ばかり達者で、しくじりばかり。
周りを巻き込んで、えらい目にあわせるものの、
結局あのありあまる愛嬌で、なんだか上手く収まってしまう。
愛すべき愚か者というか、落語に出てくるようなひとだ。

「ダンナ〜」と持ち上げるおさいに相好を崩し、
にやけて飲んでいる顔があまりに素直で可愛いこと。
確かに柳次郎の言うとおり「腹には何もない」というか、
深く悩んだり考えたりはしないのだろう。
そんな彼だからこそ、磐音の養子話に目くじらたてるのは、
非常にストレートな物言いで、ど真ん中。
磐音にはこたえただろう。はらはらしてしまう。

品川家はしょっちゅう押しかけられて、一番の犠牲者のはずなのに、
何くれとなく面倒をみてやる柳次郎はどこまでひとが良いのか。
原作にもある、幾代のこらしめ(今回は薙刀)は痛快。
武左衛門のなんとも言えない表情に、
突きつけられた刃先の光がきらきら映るのがおかしい。
両者のかけあいは絶妙ですね。

<四出との決着>
庚申の仲蔵の一味を撃退したあと、ようやくおこんの気持ちもほぐれ、
橋の上の相合傘は心が通い合っているような良い雰囲気だったけれど、
突如ここに斬り込んでくる四出縄綱!
この緊張感あふれる対決には息を呑んだ。

見つめあう磐音とおこんのバストショットからカメラが引くと、
雨降る橋の向こうから笠をかぶってやってくる男。
笠を投げ上げるのが合図のように、瞬時に斬りかかる四出。
はっと避ける磐音。よろめくおこん。
画面を横切るように突き出される四出の剣。抜き合わせる磐音の剣は縦。
ヨコとタテの刃が十字型に交差し、おこんは思わず顔をそむける。
このスローモーション場面は、ひとつひとつが目に焼きつくよう。

「おぬしを斬る約束をして金を貰った。冥土への道連れとなれ」
風にかすかになびく四出の髪。青みがかった背景に浮かび上がる顔は、
すでにこの世のものではないようにも思える。
「覚悟」「おこんさん、下がっていてください」
後ずさるおこんを引きで見せたあと、半眼峰返し(波動なし)。
ここからの緊迫の立ち回りは、古風な昔の劇伴ふうの音に乗り、
まさに命懸けの勝負で、一瞬たりとも目が離せない。

引いて、寄って、また引きながら見せる丁々発止の戦い。
ぎりぎりとまた十字型に交差する刃。と、突然磐音の刃を手でつかむ四出。
意表をつかれて見つめる磐音。
にぎった手から血が滴り落ちるうち発作で咳き上げ、
最後の力をふりしぼって振り上げた刀。
磐音は渾身の力でその体を斬る!重たい、肉の音。

くずおれて橋の欄干に寄り、ふところから形見の櫛を出して、
「志乃…遅うなった。今行く…」と、がくりと陥る四出の顔は、
修羅の世界を抜け、ようやく安らいで。
刀身を拭い、納刀したのち、静かに目を閉じてその死を悼む磐音。
斬りたくて斬ったわけではない。
こういう時、磐音はやはり琴平のことを思い出すのだろうか。
どうして磐音ばかりこんな思いを、と理不尽さに思い沈みながらも、
その横顔の綺麗さに見惚れてしまう。
そっと傘をさしかけるおこんも同じ気持ちだろうか。

私はこの場面をロケ見学で直に見ているし、もちろん展開は分かっていた。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1145054950&owner_id=949383
しかしこんなに押し迫ってからの場面とは予想もつかなかった。
橋の上の場面は正味わずか4分。
でもとてつもなくぎゅっと濃密な時間で、別の次元に居るような気がした。

峰返しのあと、波動リアクションがなかったのにはほっとした。
実はロケ現場では「ここで波動。周山ヴァージョンで」とか、
四出役の小沢さんに「波動にあたったようなリアクションを」という
指示の声が飛んでいたのを確かに聞いたのだけれど、
これほど緊迫した殺陣場面に、いささか漫画的演出な波動なんて、
かえって邪魔と判断されたのかもしれない。

<演出とカメラワーク>
第四回、五回、六回、七回と四連続だった本木監督演出のあと、
久々に見る周山誠弘監督の演出は、いたってスタンダード。
(そういえばガイドブックではこの回は清水一彦演出と記されているけれど、間違い)
本木演出のカメラがぐんぐん迫り、動き続けるのを見慣れていたので、
幾分大人しい印象を受けるけれど、会話する人物たちのアップは、
その都度きちんと切り返され、律儀な感じ。

陽炎2では第七回「親子」と第十回「夫婦」という、
人情の機微を大事に描く回を手がけられていたが、
今回も磐音の表情や、四出の女房・志乃への思いを丁寧に見せていた。
磐音と四出の殺陣場面も見事で、バランスがとても良い。

それにしてもシリーズ3は、30分の尺にぴたりと合わせ、
非常に効率よく、短さを感じさせないつくりになってきたなあ。
おこんの逡巡、庚申の仲蔵、四出のエピソードが絶妙の配分で描かれ、
ばたばたした感じがない。
30分に変わったばかりだったシリーズ2の初回では、
吉祥天の親方のエピソードがなんとも駆け足で食い足りなかったのを思い出すと、
大変な進化だなあと思う。

<細々雑感>
・磐音の端麗さ

寝巻の浴衣は細かい籠目(かごめ)模様。
寝乱れたあとなどまったく感じられない端正さ。
地蔵湯二階でのグレーの長襦袢もあまりにすっきりと綺麗で、
手拭いで汗をぬぐう仕草にときめいてしまう。
雨のなかでの立ち回りのあと、髪を拭いているのも良いなあ。
彼はやっぱりどんな女性より色気があります。

・霧子の片思い

黙々と道場の雑巾掛けをする霧子に、先日の礼を言う磐音。
「いえ…」とうつむきながらも内心の嬉しさは如何ばかり。
一言の礼であっさり立ち去る磐音の後姿を見送るのは、
まるで憧れの先輩を見つめる下級生みたいで、いじらしいったらない。

・おさいの手拭い

明るい紺地に白抜きの花模様のを、姉さんかぶりにしているのも
きりっとした花売りらしくて素敵だったし、
いよいよ押し込もうとする雨の夜に、吹流しにして立っているのも色っぽい。

<ゲスト俳優>
・千面のおさい役は遠野凪子(とおの なぎこ)さん
http://www.toho-ent.co.jp/actress/show_profile.php?id=4142
朝ドラ『すずらん』(1999)のヒロイン役からはや十年。
耕史くんとは今年3月放映された『落日燃ゆ』の、
広田家の姉弟役で共演してましたね。

・庚申の仲蔵役は蟷螂襲(とうろう しゅう)さん。
http://talent.yahoo.co.jp/pf/profile/pp12631
http://pm-t.hp.infoseek.co.jp/profile/toro.htm
この芸名はとても印象的。蟷螂ってカマキリのことですから。
満開座やリリパット・アーミーなど、関西の劇団で活躍なさってきた方。

・手下の千太役は小野孝弘(おの たかひろ)さん。
http://news.goo.ne.jp/entertainment/talent/M06-0201.html

・四出の女房・志乃役は市瀬理都子(いちのせりつこ)さん。
http://www.vaudeville-show.com/member/ichinose/profile.html
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