ロケ見学というのは、間違いなくクセになってしまう。
ちょっと無理してお休みを取り、10時前には仲間と共にワープ着。
本日は昼から雨との予報で、雨具はしっかり持参したけれど、
予想に反して明るい陽射し。ちょっと暑いほど。
やはり晴れ男さんの霊験あらたかというところ。
＜片付け作業と撮影準備＞
本日磐音は午後撮影の予定なので、前々日より長く見られそうで楽しみ。
撮影が始まるまで、恒例の園内パトロールに出発したが、
オープンセットでは、小橋向こうに建てられていた小屋を解体中。
さすがに作業中そばに寄るのは憚られるので、早々に退散。
大店通りには暖簾が下がり、よく見る「呉服太物問屋」の看板も。
定番のお太鼓橋の上から大店通りにかけての撮影らしい。
パトロールは早めに切り上げ、休憩所前あたりで動きを眺める。
大きなトレーラーがばーんと視界をふさいでいるのは、
今日で今回のロケが終了するため、道具類を搬出するためらしい。
壺だの魚籠だの、いろんなものがどんどん積まれてゆく。
やっぱり道具はすごく多いんだなあ。
これまで搬入した小道具が建物内部に積まれているのも見てきたが、
どういうものか道具入れのダンボール箱は、海苔の箱が圧倒的に多い。
たくさん入れても軽いから、大きく深く出来ている海苔用の箱は、
道具をぽんぽん入れておくのに、ちょうど良いサイズなのかもしれない。
外側に大きく「佐賀海苔」だの「愛知海苔」だのと書かれている
同じ大きさの箱だらけなのは、ちょっとした眺め。
人の動きも出てきた。
さっと視界を横切ったのは、中越典子さん。時刻は10時半ちょっと過ぎ。
まだおこんの扮装ではなく、自前らしき浴衣姿。紺地に白の花模様。
足元はとても細い黒の鼻緒のサンダル。中越さんは扮装前の姿もお洒落。
＜割烹 陽炎亭＞
ロケ開始は正午頃かららしく、食堂は準備が早い。
11時頃には外にいつもの受付机やスタッフキャスト名簿が並んだ。
見慣れないものが貼ってあると思ったら
入口に貼られた紙には「割烹 陽炎亭」の手書き文字。
ピンク色の縁取りまで入れてあって、なんだか楽しい。
「現金受付」「現金払歓迎」というような掲示の紙の文句に
思わずくすっと笑ってしまう。現金じゃない場合はツケでしょうか？
それをどなたか取り立てにでも行くのでしょうか？
殺陣師の竹田先生が小柄なお弟子さんと一緒に食堂へ。
お二人は外のガラスに近い席でお食事。
本日は天麩羅うどん（or そば）とゆで卵やサラダ、いくら丼など。
みつ豆のようなデザートもあり。
まだ陽気が良いので、お盆を外に持ち出して食べるスタッフさんもいる。
うどんやそばの汁の美味しそうな匂いがふわっと漂って、お腹が空いてきた。
午後にそなえ、私たちも隣の無料休憩所に入って持参の昼食を急いで摂る。
するうち、耕史くんのお兄さんが入っていらした。
また二人分のお盆を持って楽屋のほうに行くのかな、と思っていたら
お一人で食堂内でお召し上がり。主役のかたは食事済なのかしら。
＜耕史磐音登場＞
駐車場との境の木戸をずっと見ていたひとが、
耕史くんがまたあの甚平姿でやって来た！と報告。
見えたのはほんの一瞬のことで、気付かなかったひとばかり。
急ぎ休憩所を出て、芝居小屋や楽屋の出入りが見える外で待機。
朝に比べると少し雲が広がってきていて、ちょうど過ごしやすい気温。
皆してそわそわ浮き足だっていると、木戸から姿を見せたのは…
あ、すっかり扮装成った黒の着流し磐音さま！素早い！
鬘の元結部分には、まだ乱れ防止の和紙を巻いたままだ。
いつもは扮装後、ただちに撮影場所に向かうのが常なのに、
芝居小屋前の床机に座り、スタッフやお兄さんと談笑。
恐る恐るファンが寄っていってもリラックスして、
ほわーんと笑いながらあれこれしゃべり、こちらにまで語りかけてくる。
スタッフ道具の折りたたみカッターを見つけて、
その刃を開いて神主持ちしたり、峰に返してみたり、やんちゃばかり。
こんなことは珍しい。見学者には望外の得難い時間だった。
＜おこんと磐音、橋の上＞
正午少し過ぎおこんちゃんが扮装して出て来て、
揃ってお太鼓橋のほうへ。
彼女の衣裳は青磁系の地色に絣模様が多いなあ。よく似合う。
帯はえんじ系。素足に紅鼻緒の下駄。
橋の上の二人を幾度見てきたことだろう。
出会いの場もここだし、大切な告白も行われた。二人には特別な場所だ。
おこんの手には番傘。磐音とともに相合傘。
陽炎2の時には、磐音がおこんにさしかけてやる場面があったっけ。
この和傘の生成りの色は、その下の顔をもうっすら明るく照らすようで
とても良い色だと思う。絵になること。
今日は天気予報で、午後から雨との予報だったから、
最初から傘をさす設定にしたのかもしれない。
確かに天気は明らかに下り坂だが、まだもうちょっと持ちそうだ。
「本当に、お疲れさまでした」とおこんが磐音に頭を下げる。
やや間があって、磐音が口を開く。
「おこんさん。それがしはおこんさんが嫌と言うのなら…」真剣な口調。
磐音の胸に手をあて止めるおこん。それ以上言わなくても良い、という感じ。
最初は唇に手を当てて「しっ」と止める動きだったようだが、
手で止める型に変わったようだ。
「おこんさん、手をもう少し上に」などとスタッフから指示が飛ぶ。
ひた、と見つめ合う二人。情が通っているのを確かに感じる。
こんなに雰囲気のある場面だというのに、
カメラが止まると、磐音さまはすぐ耕史くんにもどってしまう。
ふざけておこんちゃんに迫ってみたり、歌を口ずさんだり。
本日はいつもに増してやりたい放題。
いたずらっ子を相手にしている保母さん状態の中越さん、大変！
＜四出との殺陣＞
おこんとのしっとりした情景に割って入る刺客・四出。
くたびれた着物と袴、浪人ふうの髷は一貫して変わらず。
おこんは後ろに下がり、橋上で果たし合う磐音と四出の動きは、
まず殺陣の竹田先生とお弟子さんが見本を見せていた。
先生は主に四出の動きを付けていたようだ。
ひゅっひゅっと大きなアクション。
お弟子さんは磐音としてそれを受け、合わせる。
刀を避けてさっと背をかがめる磐音の頭上を刃がかすめる。
見ていて息詰まるような、激しく長い斬り合い。
あとでカットは割るのだろうが、一連の動きは一通り流された。
原作で磐音は四出に傷を負わされたあと、しばらく養生して回復し、
再度両国橋の上で襲われて、今度は討ち果たしているが、
ここでの立ち回りはこの二度目の決着場面なのだろう。
それにしてもこの橋の場面の見学は、かなり苦労した。
最初は廻船問屋側の岸のほうから見ていたのだが、
この岸辺には柳が多いので、ふっさり茂った葉が邪魔をして人物が見えない。
いつもは橋がよく見通せる長屋門側の岸辺は、
規制チェーンが遠めでそれほど近づくことができないし、
大店通りは入口でチェーンがかけられていてかなり遠いし、
どこへ回っても障害物があって右往左往。
こんなにぐるぐる移動しながら必死でかじりついて行ったのは初めてかも。
＜霧吹きの雨、本物の雨＞
一度流したあと、今度は細かくカットを割っての撮影。
小道具さんが、おこんの持つ番傘に霧吹きで丹念に水を吹きかける。
実際の雨は降っていないが、たっぷりと水を含まされた傘は、
さすと縁からぽたぽたしずくが落ちてくる。綺麗綺麗。
この傘をさしながら「本当にお疲れさまでした」というおこんの台詞も、
より情緒的に聞こえるような気がする。
この時点では、長屋ゾーンへの道筋を後ろに控えたあたりから、
橋のせりあがりを正面に見ていたのだが、
「このあたりカメラに入りますので」と後ろに追いやられるちょうどその時、
ぽつぽつと本物の雨が落ちてきた。時刻は2時あたり。
空はすっかり黒い雲で覆われている。とうとう降り出してしまったか。
見る間に雨脚が強くなり、さすがに撮影は一時中断となった。
私たちも軒のある休憩所のほうへ避難。
しかし小雨になると撮影は続行された。
この場面は今日撮りきってしまわねばならないのだろう。
鬘も衣裳も濡れてしまうし、役者さんは大変だが致し方ない。
どういうわけか、さきほど立ち退きを迫られた位置に行くことが出来たので、
再び同じあたりから磐音とおこんの後ろ姿を見る。
お太鼓橋の向こう側からふいっとあらわれる四出。
おこんのほうを振り向いていた磐音が、はっと反応して刀を抜き合わせる。
びっくりして立ち尽くすおこんに、
「おこんさん、下がっていて下さい」と前を向いたまま静かに言葉をかけ、
おこんは後ずさる。
彼女は後ろも見ず、傾斜があるうえに濡れている橋を移動するので、
見ていてちょっとはらはら。
リハーサルではなんとか大丈夫だったものの、
「本番！」となった時、案の定欄干にぶつかってしまい、ひやっとした。
本当にこの勾配はかなり危ない。
カットがかかるたび、夏には日除けに使われた
青と白のビーチパラソルのような大型の傘がさしかけられる。
＜刀用の袋＞
いつものようにちょっとずつカットを割った殺陣。
磐音の手元アップだけとか（この時相手をしたのは竹田先生）、
バストショットだけなども撮影された。
通常リハーサル用には柄に緑のテープが貼られた練習用の刀、
本番では本番用の刀に持ち替えて撮られるのだけれど、
部分のみで柄まで映らない場合には、練習用でやってしまうことも。
そう言えば今回の見学で、細長く色鮮やかな袋が目に付いて、
何だろうと思っていたのだが、小道具さんが刀を入れていたようだ。
緑には練習用、紅や白は本番用の刀を収めるのかも。
今まで見た覚えはないから、新たに作られたのだろうな。
こういうこところにもスタッフさんの作品への思いが感じられる。
＜波動のリアクション＞
定番となった磐音の「半眼峰返し」場面も撮影されたが、
後ろからの見学だったので、表情が見られず残念。
「ここで波動。周山ヴァージョンで」との声。
「波動」とは磐音が剣を構えて峰に返す時の、
ドクン、と画面が鼓動するようなところだろう。
周山ヴァージョンということは、周山誠弘監督演出の波動ということか。
陽炎2で周山監督の演出は第七回「親子」と第十回「夫婦」だったけれど、
他ヴァージョンの波動とどう違ったのか、よく覚えていない。
あとで調べてみよう。
そのあと、返しで四出単独のバストショット。
「波動に当たったような感じで反応してください」と言われて、
四出役の小沢さんはちょっとぴんとこないというか、
どんな感じだか分からないようだった。
役者さんとしては、CG演出に対してどう対応して良いのか、
やりにくいところではないかと思う。
固唾を呑んで見守るおこん単独のリアクション場面では、
磐音と四出はお休みして、竹田先生とお弟子さんが動きをやった。
レフ板などでひかりをあてられ、おこんの顔が白く浮き上がる。
＜長回しの立ち回り＞
磐音が身をかがめたりする一連の立ち回りの撮影は、
思っていたより長回しで、タイミングが合わず何回かやり直し。
雨は降り続けているし、見ていてはらはらしてしまう。
力が入ったせいか、回す磐音の刀が欄干に当たって、カーンと音が。
あ、しまった、という感じで耕史磐音はちょっと笑っていた。
もしや刃を損じたのではあるまいか。
急ぎ、天神髭の鵜飼百助氏に研いでいただかなくては！
最後は磐音の刀の切っ先を四出ががっとつかみ、
ちょっと磐音が驚いたところで、げほっと咳き込む。
何度かのリハーサルのあと、本番は左手に血のりを仕込んで真っ赤に。
自らの喀血で自滅した四出に、磐音は止めをさす。
このあたりの撮影はイントレ（作業足場）も使われ、
かなり広範囲に写るため、見学者はどんどん追い立てられてゆく。
仕方なく、かなり遠く離れるけれど、
町屋側から大店通り越しに橋のほうを眺めていた。
遠目ながらも、磐音の最後の剣さばきにはどきっとした。
なで斬りというか、一度がっと四出の体に当て、
すぱっと左側(見てる私たちには右側）に切り開くような動きは、
『新選組！』第28話「そして池田屋へ」での、
池田屋に登場した時の土方の動きとほぼ同じではないか。
「待たせたな」の名台詞まで思い出してしまう。
＜最後の黙祷＞
さすがに立ちっぱなしは疲れてきて、休憩所でちょっと一息。
それでも皆は頑張っているようなので、再びのぞきに行くと
「もくとう」という指示の声が聞こえた。
最初はちょっと意味が分からなかったのだが、
おこんに後ろから傘を差し掛けられ、
橋の上で磐音が目をつぶってうつむいている。
四出の命が失われた場所で、その死を悼んでいるのだろうか。
まことに磐音らしい。
一連の撮影が終ったのは4時半くらい。
「小沢さん撮了です！」の声で拍手！四出役お疲れさまでした。
磐音、おこん、四出は楽屋のほうへ引き上げ。見学者一同拍手。
＜休憩所に来た磐音さま＞
あと少しで閉園時間だしもう帰ろうか、
と見学者たちがのんびりモードでいたところ、
いきなり休憩所の建物に扮装のままの耕史磐音が、
付き添いのお兄さんと一緒に入ってきた！
皆動転して、うろたえる。
お手洗いのあるほうへ入っていく磐音を棒立ちになって見送ったが、
もちろん用を足すためなどではなく、
隣の関係者オンリーの扉のほうから二階（事務所？）へと上がったらしい。
その後皆がそわそわしてたら、いつのまにかわきのらせん階段から降りたようで、
さあっと芝居小屋の前を通って駐車場に抜けていく着流し姿が、
休憩所のガラス越しに見えた。
最後の最後までサプライズ。
なんてびっくり続きの日だったことか。
耕史くんの変幻自在、神出鬼没ぶりを改めて感じた一日だった。
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