さて、やっと振り出しの小倉。改札外で待っていてくれたmonoさんと落ち合う。
トークイベント会場はすぐこの上だが、7時半の開演までまだ3時間以上あるし、
ちょっとだけでも磐音ゆかりの地を歩きたかったので、彼女と共に町へ。
でも欲張りな私のこと、結局ちょっとやそっとでは終らなかった。
＜常盤橋＞
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豊前小倉から、筑前・筑後と肥後の長崎への街道の基点である小倉城下に
坂崎磐音と薬売りの弥助が到着したのは、昼下がりの刻限だ。
二人は城下と町家を分かつ紫側に架かる常盤橋に立って、
小笠原氏の居城を眺め上げた。…（略）…
野面積みの石垣、五層の天守閣は、唐作りの天守と呼ばれ、
四層よりも 五層目の方が張り出して作られていた。…
二人が常盤橋から振り仰ぐ城の主は、四代の小笠原忠総の時代である。
弥助が向かった紫川河口には、長門へ渡る船アドや旅人宿が軒を連ね、
常盤橋口には、参勤交代や長崎に赴任する奉行、役人たちが定宿とする
本陣などが設けられていた。
佐伯泰英著：居眠り磐音江戸双紙 第四巻『雪華ノ里』
＜第二章 赤間関討入船＞より
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磐音の旅はシリーズを通して数多く、その度ごとにご当地の読者は、
あ、磐音さまが我が町近くに、と胸ときめかせているのじゃないかと思う。
身売りした許婚・奈緒の転売先を訪ね、ここ小倉にも訪れているので、
原作ファンとしては是非実地に立ってみたかった。
「紫川にかかる常盤橋」って、とても印象的な名前だもの。
小倉という町自体、紫川のデルタの上に作られた町だとか。
海に近く、川幅の広い立派な川には、たくさんの橋が架けられている。
http://homepage2.nifty.com/kitaqare/mido17.htm
駅前あたりはすっかり開発されていて、
昔を偲ぶようなものは見当たらないけれど、
アーケード街を抜けるとすぐ川に出る。
常盤橋は江戸時代の始め頃、
城下町の東曲輪（主として町人が生活していた地域）と
西曲輪（主として武士が生活していた地域）を結ぶ橋として架けられ、
その頃は大橋とも呼ばれていたとか。
伊能忠敬もここを起点に九州の地図を作り始めたということで、
言わばお江戸における日本橋にあたる、重要な橋。
現在の橋は平成7年、木造の江戸時代の姿を復元するかたちで
架け替えられたものだそうで、当時そのままではないにせよ、
真ん中がゆるやかにせり上がり、欄干の擬宝珠も古風な姿。
見ているだけでわくわくする。
脇から見ると長さもかなりあって立派な橋。
居所を変えてあちこちから撮影。
陽のあるうちに来られて良かった。
風情があるので、紹介されることも多いようだ。
http://www.kbc.co.jp/tv/ruri/housou/554/index.html
しかし現在この橋からは、小倉城を臨むことが出来ない！
小倉城自体は、火事による焼失などもありながら、
元の場所に再建されているのだが、
大きな商業施設リバーウォークが壁となり、
この橋からの眺めを遮っている。口惜しい〜。
http://www.riverwalk.co.jp/about/index.html
仕方ないので、城のお膝元まで近づいて、姿を拝むことに。
＜長崎街道＞
常盤橋を渡りきって、その先へ向かうと、
道筋の入り口に「長崎街道」の表示があった。
あ、これが長崎街道！
磐音は今の私たちの歩みとは逆に、
長崎側からここを通って来て、常盤橋にさしかかったんだ。
なんだかどきどきしてしまう。昔から続く道。
昔ながらの道は、道幅がひとの歩くのにちょうど良いくらいなのですぐ分かる。
ちいさなお店やら空き地やら、いささか閑散とした景色だが、とっても私好み。
色変りしたトタンがあり、朽ちた木の枠に蔦がからむ。
そういうのを見つけるとつい近寄って行って撮ってしまう。
加えて、二人とも看板の文字だとか、面白い名前などに反応するタチなので、
「おしゃれ床屋」さんだとか、「はきよい、強い、カッコいい」という
キャッチコピー付きの「力王たび」という地下足袋の宣伝看板などまで撮ってしまう。
（この地下足袋の看板は、巣鴨の白山通り沿いでも見かけた）
http://www.rikio.co.jp/index.html
「錦龍」という中華料理店の佇まいも良い。
帰ってから調べると、ちょっと道を折れたあたりに、昔の小倉県庁跡の碑と、
その跡地に建つ古びた木造の小倉警察署があったらしい。
http://www.kcta.or.jp/kaidou/shiseki/kokura/kencho/kencho.html
そこまで調べていなくて、ちと残念。
広い道路を渡り、巨大なリバーウォークの下を抜けて、小倉城の方へ。
ここには北九州芸術劇場なども入っていて、
ついせんだって彩の国さいたま芸術劇場で見た『オセロー』の
ポスターなどが貼ってあった。
＜小倉城庭園＞
http://www2.kid.ne.jp/teien/
やっとお城の全景が見えた。
夕映えのひかりのなか、濠の向こうに浮き立っているのは絵になる。
磐音が常盤橋から見上げたのは安永2年（1773）となっているが、
その後この城は天保8年(1837)、城内塩切場より出火して、
天守閣はじめ本丸も焼失してしまった。
天保10年に再建されたものの、天守は建てられず、
再建が成ったのは実に昭和34年(1959)のこと。
今目の前に見るのは平成2年（1990）に全面改装された後の姿だが、
「四層よりも五層目の方が張り出して作られていた」
との描写そのもので、嬉しくなる。お城はやはり大事なシンボルだ。
お城も庭園も、たしか夕方5時くらいまでだったし、
入るのは無理だろうな、と思いつつ念のために庭園入口をのぞいてみると、
まだ受付は開いている。
聞いてみると、10月までは6時までやっているとのこと。ラッキー！
「城内見学や、敷地内の松本清張記念館とのセット券もありますよ」
と言われ、即決で購入。
もともと全部見るつもりだったのだけど、到着が遅れてあきらめかけていたのだ。
なんとかなりそうで良かった。
ここは城主・小笠原氏の別邸だった下屋敷跡の庭園だそうで、
江戸時代の武家の書院も再現されている。
平成10年に作られたとのことで、まだ新しくて綺麗。
履物を脱いで上がってゆくと、係のかたが待機していて、
説明をしながら案内してくださる。
取次ぎの間、二の間、一の間、と順番に奥へ。それぞれ18帖あるとか。
床の間のように一段高くなっている上段の間は、殿の座り場所。
どう見ても寛げる場所とは思えず、お殿様って不自由だなあと思う。
広縁の一部が池に張り出す「懸造り」になっていて、
池も近々と、庭全体も見渡せる。「浮見の庭」とも呼ばれるのだとか。
「この広縁から見る城の姿が一番綺麗だと言われています」と言われ、
振り返ってみると、確かにくっきりと鮮やかに浮き立っている。素敵。
広いだけに、縁側に立てまわす雨戸は十数枚もあって、戸袋も大層大きい。
毎日の開け閉めだけでも大変だったろうな。
格子状の板をずらすことによって明り取りになる窓の仕組みも面白かった。
別棟展示室では企画展として、
「萩焼の造形美 人間国宝 三輪壽雪（じゅせつ）の世界」を開催中。
（平成19年9月22日〜11月18日）
萩焼はなじみがあるし、素朴な味わいは好み。
ぼたっと厚みのある白い釉薬は、雪のようでもあるし、
鶏卵煎餅の上にかかる、生姜風味の粉砂糖と卵白を思わせる。
＜小倉城＞
http://www.kid.ne.jp/kokurajou/html/k01.html
切石を使わない野面積みだという大きな石垣の脇を過ぎ、お城のほうへと上る。
入場は閉館30分前までだし、さらに松本清張館まで回る予定なので、急ぎ足。
再建ではあるものの、昔どおりに張り出して作られた天守部分の黒が
独特で印象的。まるで顔に覆面をしているかのよう。
お城の入口までも結構のぼったが、中もエレベーターなどはなく、
各階までの階段は、結構大変だった。
まず1階は歴史ゾーン。約1,500体の和紙人形で貿易船から見た
小倉の城下町の様子を再現したという、ジオラマに目を奪われる。
ああ、これが武家のほうの西町で、こちらが町人の東町か、と一目で分かる。
祭りのような賑わい。大変な活気だったのだろうなあ。
紫川にかかる常盤橋はさっき通ってきたばかり。あ、ここが永照寺か！
磐音が奈緒の売られた先の岩田屋善兵衛の店を訪ねた時、
宿の主人が「京町の、永照寺裏に行きゃあくさ、分かろうもん」と答えるくらい、
皆が知る都市のランドマークだったはずだが、
現代の地図をいくら見ても駅近くの京町には見当たらず、
よくよく調べると、今は少し離れた大手町に移転していたのだ。道理でね。
この江戸時代のジオラマでは、常盤橋を渡り、今の駅に近い辺りに名が見えている。
移転先の住所も調べたので、明日行くことにしよう。
展示物の兜は、奇抜なもの揃い。
鳥の羽を高く立てたものはインパクトが強く、
許されれば写真を撮ってみたかった（もちろん撮影は禁止）。
戦国武将の兜は、自らを強く印象付けるため、ユニークなものばかりで飽きない。
2階の城内体験ゾーンでは、遊び心いっぱいの体験コーナーが多く、
前後に揺れて殿様気分が味わえるという大名かごに乗れたり、
飛脚とどっちが早いか競う、時速が分かるルームランナーのような機械があり、
時間さえあればあれこれ遊びたかったのだけれど、皆素通り。
殿様のお膳はどれか、というようなクイズもあったが、殿様の人形が殿らしくなく、
まるで番頭さんのように見えるのがちょっと気に入らない。
「島原の乱」出陣前夜の作戦会議風景を、からくり人形で再現したコーナーなども。
どんどん時間が押してきて、
3階の映像体験ゾーンも 4階企画展示ゾーンもすっとばし、ようやく5階の天守閣へ。
ここからは小倉の町がぐるりと全部見渡せる。
おお、あの遠くの瓦屋根が、今は大手町に移った永照寺ではないかな、
と地図と照らし合わせた。
ここから見るとさしたる距離でもなさそうに思えるけれど、
歩くとちょっとあるのだろう。
まだ遠くまで見えるだけの光が残るのがありがたい。
東京だともう暮れている時間。やはり西の地は、日の入りが遅いなと実感。
それにしても急傾斜の階段を急ぐのは、やはり足にこたえる。
＜松本清張記念館＞
http://www.kid.ne.jp/seicho/html/index.html
外に出ると、さすがに夕闇が迫りつつある。
城内の敷地を駆けて、少し離れた松本清張館へ。
入館制限の5時半にぎりぎりセーフ！
一階展示室に入ると、約700冊と言われる全著作の、本の顔が並んでいて、
ひとつひとつが厚みを持って迫ってくる。
松本清張氏は北九州市のお生まれで、この地を舞台とした作品もある。
『点と線』『砂の器』だの、作品の多くは映像化されているのでなじみ深い。
映像ホールでは、清張原作映画やドラマの上映なども行われているとか。
見応えありそう。
そういえば、芥川賞を受賞した『或る「小倉日記」伝』（1953年)は、
1993年にTBSでドラマ化され、とても印象に残っている。
http://www.tbs.co.jp/tbs-ch/lineup/d0577.html
森鴎外が小倉の第12師団に赴任していた時期（1899〜1902）の日記が
行方不明と知った体の不自由な青年が、逆境にも周囲の無理解にも負けず
支えてくれる母と共に、凄まじいほどの情熱を持って、
その調査に打ち込んでゆく姿を描いて圧巻。
主演の筒井道隆くんが素晴らしく、もう一度見てみたいドラマだ。
書斎や応接室の展示も大変興味深い。東京・杉並区の家を再現したものだそうで、
いかにもその時代を思わせる家具やデザインに郷愁を誘われる。
なにより圧倒されるのは蔵書量。約三万冊と言われる膨大な資料が、
書庫にぎっしりと並んでいる。どれほど調べ、読まれていたのか、
自宅にこのようなスペースを持てるというのはすごいなあ。
一時代を成した巨人、という気がする。
＜ようやくアミュプラザへ＞
すでに6時。日は沈んだが、空気はまだ暖かい。
もうあまり余裕はないので駅に直行。
ファーストフードで一応お腹を落ち着けてから、
いよいよトークライヴ会場のステーションホテル「飛翔の間」へ。
内容については別項目で書いているので割愛。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=589651419&owner_id=949383
（続く・次は小倉の夜。完結まであと2回分はありそう）
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